TACHIREK


国境市場の売り子たち

 こんなはずじゃなかった。
 静かでのんびりとしたタキレックの町は、タイから訪れた者をほっとさせる憩いの場所だった。1998年、初めて訪れた頃には町中に人影も多くはなく、国境市場にはワシントン条約で禁じられた象牙や虎の毛皮などを売る店もたしか3軒ほどあった。カメラを向けると店主が飛んできて「やめろ!」と怒るのが、今では懐かしい。道の舗装もがたがたで、メイン・ロードでさえすぐにアスファルトではなくなっていた。その舗装具合が、タキレックの憩い度合いでもあったのではなかろうかと、今では思っている。

 チェンマイのタクシー・ドライヴァーのお兄ちゃんは、年に一度くらいの間隔で奥さんと一緒に、安いDVDや電化製品などを求めて、タキレックを訪れるんだと言っていた。時代が変わったのだな、それが正直な気持ちだ。チェンマイ出身のタクシン元首相が登場するまで、チェンマイはバンコクとはまったく違う、居心地のいい田舎町だった。当時、チェンマイにはまだタクシーがなかった。一方、バス券売り場の長蛇の列を見て、タクシー乗り場でメー・サーイまで片道の値段交渉をするようになった僕自身も、貧乏旅行に近い感覚でチェンマイやメー・サーイ、タキレックを訪れた頃の姿と重ねて見ると、時代を感じさせるのだけれど。

 タイからだけでなく、近頃のタキレックは中国人客も多い。おかげで、町は街になった。市場には人が行き交い、品も実際よく売れている店が多いようだ。賑わいが増えた分、街は猥雑になった。どちらの地域に対しても申し訳ない比喩だが、今のタキレックにはカンボジアのようなガツガツした空気を感じるのだ。

 その最先端を担っているのが、煙草やDVDを売りつけようとする売り子たちなのである。彼らは商品を担いで市場の道を練り歩きながら、市場で物見遊山の観光客たちに付き纏い、相当しつこく商品を押しつけようとする。それが不要だということを繰り返し説明しようが、もっと自由に歩き回らせてくれと言おうが、とにかく彼らは歩いているかぎりついてこようとする。たしかに1998年当時にも煙草の売り子はいた。実はしつこかったという印象まで同じだ。でもそれがまったく違うものに感じられるのは、しつこさの程度の劇的な変化と、「ガラ」の悪さのせいである。少なくとも僕は、カンボジア以外のタイ国境で、この荒んだ香りを嗅ぐ心の準備をしたくない。

 一方で、国境橋から見てロータリーの右角になる場所にある「タイ・ミュージック」という店では、タイヤイ族関係の書籍やCDなどが手に入ることもわかり、便利になったこともまた確かだ。アジアの街は2000年以降、時代の奔流にその身を転じ、息もつかせぬスピードで自らの役柄を転舵させている。


穏やかで静かな川向こうの人々

 タイ最北の街メー・サーイをさらに北に向かおうとすると、この街に出ることになる。山間の町らしい細い川を越えようとすると、そこにボーダーがあり、ビルマに入ることができる。

 やはり、国境を跨ぐというのは、島嶼国家日本で生まれ育った僕達には興奮がつきまとう。同じようにこじんまりとした街なのだが、人の様子も街の様子もずいぶん違う。威勢のいいおばちゃんの声が飛び交うタイの市場のイメージに対して、タキレックでは物音以外にはしんとしている。雑然としてはいるが、何もかもがおとなしい。タイの野良犬はただやる気がないだけに見えるが、ビルマでは本当に性格が穏やかなようだ。飼い主に似るとはよく言ったもの。野良であっても、国民性が映しとられていて、だから僕は犬の観察が好きだ。
 当然のように路面状況は悪いが、メー・サーイで自転車を借りてこの街で少し走ってみられることをお奨めする。観光客がぶらりと流す橋の横の市場だけでなく、もう少し広い範囲で街の風景が見られる。細い路地にも、はずれの寺院にもビルマは息づいているはずだ。


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footprints

2011年訪問
タキレックのシュエダゴォン・パゴダ

2000年ごろ完成した新しいパゴダ。
「シュエダゴォン・パゴダ」という名の仏塔はビルマの他の地にもある。
タキレックのシュエダゴォン・パゴダから見下ろしたタキレックの街
モール・ニュイン・パゴダ

タキレック郊外にあり、タイヤイ寺院だという大きなお寺。
モール・ニュイン・パゴダ

西洋・インドの影響も感じられる。
モール・ニュイン・パゴダ

2011年地震の影響で、あちこちに被害があった。
タイヤイ寺院の一つ

改修され、赤・金・黒の対比が美しい寺院になっていた。
キリスト教会

アカ族のバイク・タクシー運転手のお兄ちゃんはキリスト教徒で、ここを案内してくれた。
仏塔の一つ

名前は失念しました。
国境橋横の市場

物売りがしつこいので、ぶらり歩きしづらい。
国境橋横の市場

この市場の人たちはなんだか機嫌が悪い人が多い。
国境橋横の市場

ビルマのお坊さんはえんじ色の袈裟が特徴。
ロータリー

国境橋をまっすぐ進むとすぐに突き当たるロータリー。
ロータリー近くの大通りにて
ロータリー付近にて

「ゴールデン・トライアングル・ホテル」と書いてあるが、あるのはカジノだけ。
ビルマの麺料理

屋台にて。
のびきったスパゲッティーみたいな味。
バイク・タクシーの人たち

セパ・タクロー好きは東南アジアの共通項。
川に並んでいる藁ぶき屋根は、家族連れなどで利用する一種のリゾート!?
タキレック料金所

入郷許可をとっていない旅行者はここで足止めされる。
国境

タイを出国するとここへ出てくる。
ミュージック・タイ

タイヤイ人御用達のタイヤイ音楽CD・タイヤイ書籍の店。
ロータリーに面し、市場の角あたりにある。
1999年・2000年訪問
市場にて

タナカーと呼ばれるおしろいを塗った子どもたち。
ビルマでは女性・子供に大人気。
仏塔

市場以外にめぼしいもののなかったタチレクに仏塔が完成。
久しぶりに尾を振ってくれる子犬を見かけた。
カオスウェイ

ビルマ風焼きそばは、かなり油っぽい。
縫製所

この街にはタイ・ヤイ(シャン)族が多い。
肌の白さですぐに分かる。
ロータリー前

タイ国境を越えた正面のロータリー前は最もにぎやかな一角。

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