YANGON


まぜこぜが溶けて流れる暑さ

 8月のヤンゴンはただひたすらに暑かった。雨季だとはいえ、雨は3日3晩降りとおし、ついぞ晴れ間を見せることがなかった。かと思えば、晴れるとタウンシップと呼ばれるダウンタウンを数ブロック歩くだけで、噴き出る汗が止まらない。ガイドブックに「乾季以外のヤンゴンは暑さとどう付き合うかが問題だ」というフレーズを見つけてはいた。だが、この街より南に位置するバンコク暮らしの僕は、この暑さをなめていた。いや、ほんとうに。

 涼を取ろうと木陰のベンチに腰を下ろすと、若い女の子たちの視線を感じる。目が合って微笑むときゃっきゃとはしゃいでいる。隣のおじさんが「どこから来たのかね? ああ、日本人か。え? バンコク? ここはバンコクじゃないよ。何もかもバンコクとは違う」との言葉。いや、僕は日本人だがバンコクで10年暮らしているんだ、と言いたかっただけなのだが。でも、いいんだ。人間関係ができたからこそ、勘違いも生まれたのだから。

 大英帝国の面影が偲ばれる重厚な造りの建物が並ぶこの街に暮らす人々の顔触れは、タイ以上に多彩だ。彫りの深いインド系とあっさり顔の中華系のビルマ人どうしが、昼間からビールを傾けて笑いながら話し込んでいる。2〜30年はタイム・スリップした日本の中古車がガタガタの通りをすり抜けてゆく中、何もかもがまぜこぜになったこの街に不思議を感じながらも、その気持ちがぼんやり溶けてしまうくらいに、ひたすら暑いのだった。




シュエダゴォン・パゴダ

 冒頭記事の横に掲載した写真が、このビルマ最大のパゴダ(仏塔)であり、右の写真はその周囲を取り巻くビルマ式の四角形を強調した寺の建物群である。

 帰りの飛行機のウエイティングで喫煙室にいたとき、マレー人がフランス人を笑わせていた。「初日、パゴダを4〜5ヶ所回ってホテルへ戻ったら、ドライヴァーが、明日はどこへ行きますか、って訊くんですよ。どんな場所があるんですか、と尋ねたら、『パゴダ』『パゴダ』『パゴダ』……。もう、パゴダばっかり」。そう、そんなパゴダ国にあって、このパゴダは最大かつ最重要なパゴダなんである。

 その神聖さは、僕も太鼓判を押して認める。威容においても美しさにおいてもそうであるが、もっと神秘的なことがある。何もかもが容易でないこの国でなんとか用事にけりをつけ、心身ともに喪失寸前だった僕は、ビルマで重んじられている自分の誕生曜日の方位からのお参りを済ませると、到着以来の雨がやみ、翌日は快晴となったのである。これと同じようなことが数ヶ月前にチェンマイでもあったが、タイでは見られない長雨がすっかり変容したのには舌を巻く以外になかった。

 パゴダの国最高のパゴダは、僕たちがちょっとやそっとでは信じられないくらいの力を持っているもので、いとをかし。
 


チャウッタジー・パゴダ

 ビルマで最も大きな仏像は現在、モーラミャインにあると聞いた。しかし、それにしてもこのチャウッタジー・パゴダの大きさには圧倒される。入り口を進んで仏像が見えた瞬間、誰もがあっと驚くはずだ。タイでいえば、さしずめワット・ポーの寝釈迦像であろう。

 だが、その表情が相当に違う。タイの寝釈迦が入滅にしては妙なエロティシズムを含んだ意味ありげな笑顔であるのに対して、ビルマの仏像は清廉で真っ直ぐな印象である。日本のはその表情から何も読み取れないことから見ても、現在の国民にもその生活姿勢が反映されていると見える。

 夜になっても人々が訪れ、寝釈迦の裏では愛を語り合っていると思しき男女や、ギターを掻き鳴らす青年の姿が認められ、ビルマの寺はタイ以上に市民の集いと憩いの場所なのであった。
 


イェレー・パゴダ

 ヤンゴンから旧都のターリン(シリアム)を越えてチャウタンまで、車で1時間。この小さな村は川の中州に建てられた水中寺院で有名である。

 小さなボートで川を渡るのだが、屋根のついていないビルマ人専用ボートの料金は200チャットで、屋根のついた外国人専用ボートは5000チャット。商売に携わったときのビルマ人は、まったく……。ちなみに、ビルマ人がお寺を参拝するときは、どこであっても無料。

 このボートで靴も預かってくれる。というのは、ビルマの寺院境内はどこでも裸足が義務であるからだ。靴下もいけない。ただ、これが灼熱の太陽で焼けた上を歩くとなると、平素は裸足を晒すことの少ないやわな日本人の足の裏にはけっこうきつい。境内が大理石で敷き詰められているのも納得である。大理石は神様のお慈悲のように、実に優しい。だが、魚(ほとんどはナマズ)に餌をあげる場所はコンクリートになっているので、日影がないと早々に退散する羽目になる。

 ヤンゴンより海鮮類が安いのも、このあたりの魅力。ただ、肝心のイェレー・パゴダといえば…思ったより小さな規模で、この寺院そのものよりも、道中にいくつも大小さまざまなパゴダが点在していたことや、意外に大きな橋の存在のことの方が面白かったりしたのであった。


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街では男も女もロンジーが主流。
ビルマの僧侶

タイの僧衣よりもオレンジが濃い。
ボージョー・マーケットの僧侶

喜捨を受けてお経を唱えてくれる
僕も話しかけられた
ボージョー・マーケット

屋台のおばちゃんは、食事中に突然日本語を話した。
どうやら日本語を習って3年になるらしい。
インド系住民も多く、街の顔は多彩。
屋台の米麺とパパイヤ・サラダ

米麺はけっこういける。
サラダは不思議なカレー味。
スイカは東南アジアの味に慣れると、日本では薄味に感じる。
雲南料理は濃いめの味つけだった。
シャンの麺・ワンタンはあっさり味で、今回のベスト!
インド料理屋も豊富で、今回は羊の脳のカレーを。
イェレー・パゴダ対岸の店でエビ・カレー。
ヤンゴン随一のボージョー・マーケット。
ボージョー・マーケット

宝石コーナーはかなりの充実。
シュエダゴォン・パゴダ

ビルマ寺院は四角を強調した造り。
シュエダゴォン・パゴダ

宵闇の中に蝋燭が並ぶ。
シリアム

みなさん、どこまでいくのやら…。
旧都シリアムの大パゴダ。
こんなところにもパゴダが。
イェレー・パゴダ

脇でナマズに餌をやる場所がある。
コンクリートの足元は焼けてたいへんな熱さ。
インド寺院もちらほら見かける。
ホテルの窓から

右端に見えるのがシュエダゴォン・パゴダ。
ヤンゴン駅のプラットフォーム

雑魚寝している人も多数。
ヤンゴン駅

まだ青いバナナを積み込む男たち。
駅のプラットフォームなのに、ゆったりとした時間の流れ。
ヤンゴン駅前

ヤンゴンは日本の旧型車のテーマパーク。
最高裁判所

おそらくロクなジャッジが下りない最高裁判所。
一日中雨が降りやまない。
日本の梅雨を思わせる。
大英帝国の名残りを感じさせる。
スーレー・パゴダ付近

英国風に中華風にと、目まぐるしい。
ヤンゴン日本大使館

軒先は野良犬たちの雨宿り場。
橋は驚くほどしっかりとした造り。
こちらの橋の方が、さらに長い
遊園地跡?
チャウタン市場

古い街並みが続いている。
空港の銀行系両替所

悪評高かったFEC両替所はまだあった。

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