SISOPHON


まだ見ぬシソフォン

 想像していたことだったといってもいいかもしれない。

 長い間、僕はカンボジアを巡るときには南回りでココン〜シアヌーク・ヴィル〜プノンペンという海側ルートを好んできたが、それはポイペト、シソフォン経由のシェムリアプ(アンコール・ワットへの拠点となる街)ルートにいい噂を聞かなかったからである。だが、カンボジアに何度か足を運んでいるうちにポイペトやシソフォン自体がどういう街であるのか気になり始めた。しかし、結局今もってシソフォンがどういうところだったのか分からずじまいで、ポイペトに至っては宿泊もできなかった。そう、やられたのだ。
 その以前にこの国境を越えて一気にバッタンボアンへ抜けたこともあったので、ボーダーにいるうっとおしい連中はやり過ごすことができた。いくらなんでもタイに暮らしている以上、そんなつまらないへまはやらない自信はあった。なのに、シソフォンへ向かうピック・アップの車内である男が話し掛けてきたので、その相手をしたのがいけなかった。バッタンボアン行きの時にはこのパターンで車中のクメール人客のお兄ちゃんに街を巡り宿を安く斡旋してもらった経験があったものだから、「同じ乗客」というシチュエイションに注意の詰めが甘くなってしまったのだ。「まずご飯を食べよう」と誘われて入ったレストランのラーメンが苦かった。生野菜がてんこ盛りに入っていたからそのせいだろうと思っていたが、気分がおかしくなり、そのあとは何とか意識を保って男を振り払ってホテルに戻るのがせいぜいだった。
 カンボジアの地方の町は小さいから、旅行者情報はすぐに回るのだろう。ホテルマンやその男だけでなく、自称個人ガイドや見知らぬバイタク運転手までが部屋の扉をノックし「女を紹介する」「クスリはいらないか」となかなか休ませてはくれない。

 ようやく持ち直しかけた3日目、もうバンコクに戻らなければならなかった。例の男が性懲りもなく「土産に買っていってくれ」とポケットから錠剤を取り出す。いいかげん頭に来るが、下手に騒いでもここはカンボジアの田舎。警察の信用度がどれくらいのものかさえ掴めない。「そんなにいいものなら、あんたが試しにここで見せてくれ」というと、彼は10分後には地獄の扉を開けてしまったようだった。街を見下ろすブノン・スヴァイの丘も、街とは反対の麓にある寺院も、おいしいレストランもよく分からないまま、足早にピック・アップに乗り込んだ。

 リベンジ・トリップで今度こそはゆっくりと町中を散歩して穏やかな風に吹かれたい。


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シソフォン瓦版

シソフォンの仏教徒たち
ブノン・スヴァイ

クメール・ルージュ時代には民衆監視に使われたという小山

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