熊本


ピュアな人情味

 チンチン電車で小銭が用意できなくて困っていると、乗客のおばさんたちが財布を探り合ってくれた。ボクの出身地である大阪は人情の街なんだと思い続けていたが、熊本は、もっともっとピュアな人情味溢れる街であるように感じる。

 Iさんはレコード店の店員で、高校生の頃の僕のよき音楽アドバイザーだった。キャロル・キングとローリング・ストーンズのLPを同時に買い求める僕の音楽的な趣味を判ってくれる、身近にいる中では唯一の人だったが、転勤で出身地の熊本に戻ってしまった。
 サラリーマンだった頃、熊本出張の合間にまず訪ねたのは、彼が勤めているレコード店だった。Iさんは懐かしそうに目を細め、ラーメンをおごってくれた。僕の音楽的な趣味はさらに広がりを見せていたが、Iさんは「最近は音楽を聴いていない」と湯気の立ったラーメンをすすった。あんなに音楽の楽しさを教えてくれたIさんだったのに、とさびしくなったが、今では判る。年齢を重ねても情熱をもって音楽を聴きつづけることができるのは、じつはそんなに多くの人ではないということを。
 突然の僕の訪問を、しきりに「ありがとう」と喜んでくれたIさん。大切なのは「音」ではなくて「人」なんだと、これまでとは違うことをIさんからまた教わった。





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熊本ラーメン

 「近畿のラーメンはおいしいと感じられない」と、熊本出身の友人から聞いていた。「ラーメンといえばとんこつという地域で育ったからなのかな」とは付け加えていたが、彼の言葉はひっそりとした自信に裏打ちされているのが判った。
 出張サラリーマンとなったかつての僕は、熊本に到着して迷うことなく、ラーメン屋に駆け込んだ。下調べのため、どこの店がおいしいのかと彼に尋ねてみたのだが、「どこの店でもおいしいよ」という返事だった。駅前の赤提灯で啜った熊本ラーメンは、はたして相当うまいのだった。九州ラーメンというと博多がイメージにあるようだけど、熊本はもっと上をいっている。濃い口が苦手な人にはそうでもないかもしれないが、こってりした豚骨スープに木耳、醤油卵が抜群に合っていて、僕はその夜、店の感情を済ませた足でわき目もふらず別のラーメン屋の暖簾をくぐっていた。

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