奈良

明かりがポツリポツリ

 午後8時には店々のシャッターが降り、人通りがなくなることに驚いた。大学生になりたての頃はまだ、大都市に近い地方都市の在り方というものを知らなかったので、こじんまりした県庁所在地の姿に「田舎なんだなぁ」という感想しか持てずにいた。都市周辺開発の手が及ぶには歴史がありすぎて、ベッド・タウンとしては大阪からも京都からも一定の距離があり、かといって「街に繰り出す」となれば両都市から苦もない距離だという考察など、そのときにはまだ考えも及ばなかったのだ。
 その大学生活も3年目を数えるあたりには、盆地を抜ける冬の風に懐手しながら木戸の並ぶ薄闇の路地を友人と急ぎ、小さな赤ちょうちんに吸い込まれてあおる熱燗が格別の味であることに気づいた。日が落ちてからの「ならまち(古い奈良の町並みが残っている地域)」では、ぽつりぽつりと灯った明かりが郷愁を誘い、情緒としか言いようのない落ち着きが、音もなく湧き出てくる。7席しかないカウンターに新しい客が来たので僕らが席を詰めるとき、言葉も交わさないのに、そこにいるみんなが少しやさしくなれたような気分を分けあうことになる。

 そして、今となってはこう思う。都市ではない街が、僕にとっては一番なんだと。



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