兵どもが夢のあと チャオプラヤー川を挟んでバンコクと向かい合った西岸はトンブリーと呼ばれ、旧都アユタヤーから現在の首都バンコクに遷都される間、1767年からの15年だけ、トンブリー王朝の王都であった。ビルマから国を奪還した英雄タークシンが王となってこの地に金の都という意味を持つ名を冠したが、発狂したとのかどでチャクリー将軍に処刑され、短いトンブリー王朝はその役目を終えた。 タイで仕事を始めようと初めて僕がアパートを借りたのは、このタークシン大王像があるロータリー、ウォンウィエン・ヤイにほど近いところであった。サートーン通りから橋を渡ると、世界はぐっと庶民的になり、暮らしの匂いが強くなる。この頃DPEに出した写真を受け取りに行くと、名乗ってもいないのに氏名欄に何か記入されていた。よく見ると、そこには「イープン(日本)」と書かれている。少なくとも在バンコク日本人が1万人以上だとされていたが、川をひとつ越えると、姿を見ることがほとんどなかった。BTSがこの地に延伸される10年前のことである。 仕事の都合上、僕もバンコク側に居を移して現在に至っている。そんな個人の理由が絡まっているせいもあって、トンブリー側には郷愁をかきたてられてやまない。廃れて取り壊しとなったバンコク・ノーイ駅といい、ほとんどその址も確認できないトンブリー王宮といい、そして悲劇の王といい、チャオプラヤー左岸には寂しいエピソードが多い。だが、ここでは「兵どもが夢のあと」には夏草ではなく、下町風情の暮らしが残され、息づいている。そんな姿を確認するために、僕はまたふらふらとこの地域に足を運ぶ。 |
ウォンウィエン・ヤイ チャオプラヤー川を隔てると、街はいっそう雑然とした様相になる。人々の生活もグッと身近に感じられる。屋台や家の一階でやっている店が非常に多くて(特にラートヤ通り)目移りする。ひなびた感じのするデパート「メリー・キング」の雰囲気も捨て難い。 ウォンウィン・ヤイとは大きなロータリーのこと。ロータリーの真ん中はアヌサワリー・チャイ(戦勝記念塔)と同じように像が建てられており、ここではビルマ軍から領土を奪いかえした将軍であり、トンブリー王朝唯一の王、タークシン大王が馬にまたがっている。 マハーチャイ(サムット・サコーン)までの1時間のローカル列車の旅も趣が深い。ウォンウィエン・ヤイ駅やタラート・プルー駅は駅舎に囲まれてはおらず、道の路肩に投げ出されたようなかっこうで、片側ホームの反対側から列車を降りて直接道へ出る乗客も多い。また、ホームには露店がずらっと並び、そちら側だけ見ればここが駅だとはにわかに信じ難い。列車はすぐに喧騒から離れ、車窓の風景を楽しめる。 モスクや頭巾をかぶった女性の姿もちらほら見かけ、ここにも旧都である面影が偲ばれる。 この付近にはチュム・チムの屋台が多く並び、どの店もうまい。 ●BTSシーロム線終点から北へすぐ。 |
プラプラデーン チャオプラヤー川の蛇行によってできた、みみたぶのような形をした半島がプラプラデーン。ビルマからやってきたモン族がこの地域に集住しており、タイ風とは趣の違った水かけ正月をすることが、近頃紹介されているのを見る機会が増えてきた。その地域性から国王によって開発を制限され、背の高い建物がなく緑にあふれた環境で、現在ではその自然に溶け込んだコミュニティーの在り方が注目を集めている。 チャオプラヤー川のクロントゥーイ港脇から渡し船に乗って到着すると、まずその空気の美しさとのんびりした雰囲気に包まれて驚くこと請けあい。この船着き場の近くでは自転車をレンタルすることもできる。ここからすぐのところにあるスリナコーン・クアンカン公園ではカヌーにも乗れて、休日のひとコマらしい時間を過ごすことができるだろう。ルンピニー公園で有名なミズオオトカゲも見られる。 ラマ3世通りからの産業道路環状線橋が完成し、対岸のプラプラデーンから、さらに対岸のサムローンを結んでおり、左岸〜右岸〜左岸を一気に跨ぐ形になっている。その橋脚の下には公園が完成し、その中にはモン族資料館もオープン。プラプラデーン市場のある中心街はこの橋のある半島のくびれた部分に近いところにあり、昔ながらの木造の建物がやたらに懐かしいムードをかきたててくれる。 また、半島の中ほどにはバーン・ナムフン水上マーケットがあり、週末だけの営業だが、タイ人を中心に人気を博している。規模は小さいが、バンコクからすぐにアクセスできる水上マーケットしては以前から知られているワット・サイ、新しく整備されたタリンチャンとともに、今後耳目を集めることになるだろう。 バンコク中心部からこんなにも近いところに、昔ながらの時間が流れている場所が残されていたことに感謝しきり。さあ、明日も明日の風に吹かれに行ってみようか。 ●産業道路環状線橋を通ってタクシーで訪れるか、クロントゥーイ港などから渡し船。 |
プラ・ピンクラーォ サナーム・ルアン北端から見えているピンクラーォ橋を越えてしばらく行くと、アルン・アマリン通りとの大きな十字路に出る。ここから先がピンクラーォの中心街で、その中核にあたるパタ・デパートの上階には動物園があり、山羊たちに餌を上げたり、ずらりと揃った蛇にぎょっとしたりできる。ただし、時代の趨勢はパタ・デパート自体からは去りつつあるようで、上階は寂れつつあるタイのショッピング・センターの常で、歯抜け状態となったフロアを幾許かのITショップが埋めている状態になってしまっている。 屋台が並び、クラクションが響き、周辺は雑多なにぎわいで満ちている。やたらとヌアット・ボラーン(古式タイマッサージ店)が多いのも特徴。 この界隈の西はずれにはサーイ・ターイ(南バスターミナル)があり、タイ西部・南部への長距離バスの発着ポイントとなっている。 ●バンコク側からピンクラーォ橋を越えた一帯にあたる。 |
バンコク・ノーイ駅跡 以前、チャオプラヤー・エキスプレスに「ロット・ファイ」という停船所があった。今も残っているが、対岸からの渡し船専用になっている。「ロット・ファイ」とは鉄道のことで、ここにバンコク・ノーイ駅があった名残りである。 バンコクには3つの始発駅がある。ほとんどの列車が発着するホアランポーン(バンコク中央駅)、マハーチャイまでを結ぶローカル線のウォンウィエン・ヤイ、そしてもう一つがトンブリー駅。1日6本の列車が発車するだけのトンブリー駅だが、旅行客に人気の泰緬鉄道へのアクセスができることで、旅行客にはお目にかかる率も高い場所である。トンブリー駅とは、バンコク・ノーイ駅の別称だったが、チャオプラヤー川からの船荷の荷揚げに重要性が薄くなって、現在のイサラパープ通りに近い内陸に移転し、この駅を指す名前となっている。そういうわけで、バンコク・ノーイ駅はその使命を終えた。 しばらくの間、廃駅跡がそのまま残されており、チャオプラヤーを越える架橋がなかったころの南部・西部への始発駅としての誇りを感じる駅舎が残っていたが、国王も入院に使用するシリラート病院の拡張のためにこの場所が使われて、現在は工事中である。ただ、工事関係者に尋ねたところ、駅舎は博物館の形で残されることになったという。 僕が最後に訪れたときには、すぐ目の前の川に釣り糸を垂れるおじさんや少年たちが針にパン屑を丸めて水面に投げ込んでいたり、ミニ・サッカーやバドミントンで汗を流す若者たちの姿があって、微笑ましい時間が流れていた。めったになくなった日本人の来訪に「コボリ!」と声をかけてくれる人がいる(ここはタイで空前の大ヒットとなった映画「クーカム(メナムの残照)」の舞台となった場所で、登場人物であるアンスマリンの碑が構内脇にあった)と思えば、釣りの仕掛けや釣れる魚を解説してくれるおじさんがいる。人が整備して用意した施設に吸い込まれていくより、その跡地を利用して生活の余興に使おうとする姿の方がよっぽど温かみがあり、生活の匂いがする。 どうかお仕着せでなく、人々が自然に集えるような場所として生まれ変わってほしいと願うばかりである。 ●チャオプラヤー・エキスプレス・ボートでワン・ラン下船後シリラート病院を横木って徒歩。あるいは、ター・プラ・チャーン・ヌア船着き場から渡し船でロット・ファイ下船。 |
プッタモントーン バンコク広域地図でも西のはずれにかろうじて乗っているくらいのところに、相当な大きさの公園があり、その様子は飛行機から確認できる。その中央には大仏像があり、人々の参詣が絶えない。バンコクに暮らしている人なら知らない人などいないと言われるが、日本人にはなじみがない。 休日には公園に人々が集まり、広大な敷地のあちこちでサイクリングにいそしむ人々や、芝生にござを敷いて寝そべっているカップルを見かける。 ●プッタモントーン・ソイ4にある。 |
より大きな地図で トンブリー(バンコク左岸) を表示
カード詐欺のお手並み拝見
今は昔、セントラル・ワールド・チッドロムがまだ「ワールド・トレード・センター」だった頃のことである。
「ローズ・ガーデンへはどう行けばいいの?」その女性は流暢な英語で首を傾げた。年の頃は20代半ば。明るい表情だがアンニュイな仕草の似合いそうな、男好きのしそうな顔立ちである。まったく顔の似ていない弟と二人で、シンガポールから遊びに来たという。鞄から「地球の歩き方」を取り出して、ローズ・ガーデン息のバスのナンバーを紹介したのち、立ち話の延長で「食事でもどう?」と薦められた。「できれば、日本人のことが大好きな伯父と会ってあげてくれたら嬉しいんだけど。食事もそこでどう? 伯父が経営してるホテルなので、どれだけいても気にしなくてすむし」。
一人旅では、どこまで他人を警戒して、どこまで気を許すのかの匙加減で味わいが大きく変わる。自己責任である以上、泣くのも笑うのもすべて自分しだい。「このあと、フライト会社のオフィスに行かなきゃならないんだけど、それまでなら」。僕は、ありもしない予定を保険に、この姉弟の話に乗ることにした。
タクシーがどこをどう走ったのか、当時はまだバンコクの地図がさほど頭に入っておらず見当がつきかねたが、途中でアナンタ・サマコムが見えたことと、チャオプラヤー川らしき川を橋で越えたことで、それがプラ・ピンクラーォのどこかであろうことが察せられる。タクシーを降りて僕が招き入れられた建物には、1階にフロントがない。ここはゲスト・ハウスでもない、普通の安アパートであろう。しかし、アパートの部屋を宿として提供しているという業態もあり得る。
ゆるっとぶらっとあじあ YouTube
【駅ぶら】駅から歩いて行ける水上マーケット
◆ バーンパイ駅 〜 クローンバーンルアン水上マーケット
タイの駅からぶらり歩きをするシリーズ第1弾
レトロでおしゃれな水上マーケットを見つけました
いにしえのタイのムードも満点です!!!
タークシン大王像 ウォンウィエン・ヤイのロータリー中心にある。 |
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ロビンソン百貨店 ウォンウィエン・ヤイを少し東に入った所にある。 |
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メリーキング・デパート 店内は1Fのみの営業で、店内には来客用のトイレもない。 |
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ター・ディンデーン船着き場 渡し船の対岸はスリ・プラヤー。 |
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トート・タイ通りの仏具店 電飾の明かりが闇に浮かぶ。 |
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インタラピタック通り すぐ先でペット・カセーム通りと名を変え、バンケー方面に延びている。 |
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開業前のBTSウォンウィエン・ヤイ駅 通りには何もないが、ソイを入ると賑やか。 |
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フューチャー・バンケー バンコク西の一大ショッピング・コンプレックス。 以前はヤオハンがキー・テナントとなっていた。 |
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プラプラデーン市場近く モン語が確認できる。 |
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プラプラデーン中心部 木造の建物に気持ちが落ち着く。 |
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スリナコーン・クアンカン公園 平日には人も少なく、犬とオオトカゲの鬼ごっこがみられる。 |
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バーン・ナムフン水上マーケット カヌーを借りられるようになっている。 |
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運河沿いの風景 ゆったりした生活ぶりが覗ける。 |
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パタ・デパート かつてピンクラオを代表したデパート。 現在は少し寂れ気味だが、周囲の賑わいは絶えない。 |
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パタ・デパート店内 "Happy Rainy Day"という謳い文句がいかしている。 |
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パタ動物園 パタ・デパートの屋上とその階下(6階)にある動物園。 外国人入場料は200バーツだが、タイ人とタイ在住者は70バーツ。 餌をもらうのにワイ(合掌)をするオランウータンが微笑ましくも物悲しい。 |
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パタ動物園 20バーツで野菜をひと束買って、餌としてあげられる。 |
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旧バンコク・ノーイ駅ビル 再開発中だが、この建物は残されるようだ。 |
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旧バンコク・ノーイ駅の切符窓口 閉鎖され、人影はなかった。 |
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釣果を教えてくれたおじさん バンコク・ノーイ駅跡のすぐ横で話しかけてくれた。 |
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旧バンコク・ノーイ駅に延びる線路 現在はシリラート病院拡張工事のため撤去。 中央に旧駅ビル棟が確認できる。 |
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シリラート病院北エリア拡張工事 上の写真のあたりは、現在工事中。 左の写真では右端のクレーンの間にのっぽの駅ビル棟が見える。 |
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SL トンブリー駅近くに放置されたようになっている。 |
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トンブリー駅 ウォンウィエン・ヤイ駅のように、始発駅とは思えないそっけない駅になってしまった。 |
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タラート・サターニー・ロット・ファイ・トンブリー(トンブリー鉄道駅市場) その名のとおり、現在のトンブリー駅のすぐ隣にある。 けっこう広い。 |
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シリラート病院 国王も入院する国営病院。 |
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シーウィー博物館・解剖学博物館 子どもの内臓が薬になると信じ込んで次々殺害して食べた殺人鬼シーウィーのミイラや、人体の一部のホルマリン漬けを見学できる。 カメラを持っていった日は閉館していて、写真は案内板のみ。 |
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ロット・ファイ船着き場 拡張工事の横で釣りをしている人々 |
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ロット・ファイ船着き場 今では対岸からの渡し船しか停船しない。 |
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ロット・ファイ〜ター・プラ・チャーン・ヌアの渡し船 チャオプラヤー川を結ぶ。 |
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ラマ8世橋 美しいシルエットを持った吊り橋。 |
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カントン サイアム・スクエアやシーコン・スクエアにあったタイスキの名店カントンは移転し、今ではプラ・ラーム8橋のすぐ近くの1件しか営業していない。 甘めのたれと、新鮮で種類の豊富な具材が人気。 |
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バーン・バムルー駅 サーイ・ターイ(南バスターミナル)にも近い、郊外の静かな場所にあるが、このあたりもバンコクのベッド・タウンとして整備されつつある。 将来市内鉄道網の整備でこのあたりまで高架鉄道・地下鉄などのいずれかが延伸してくる予定。 |
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プッタモントーン この規模の大仏立像は、バンコクでは珍しい。 |
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プッタモントーン公園 どこかの学校の卒業生たちが記念写真を撮りに来ていた。 |
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