瑞芳 RUIFANG


こじんまりしたかわいい町

 九イ分(チュウフェン)の行き帰りに立ち寄った町だった。時間もなくほとんど探索しなかったが、列車待ちの数時間だけ町を歩いた。こじんまりしたかわいい町、という印象だった。小腹がすいたので揚げ物や果物なんかを買い食いしたが、どれもおいしかった(台湾ではおいしいものがどこにでも多いのだけど)。それだけのことだったが、もう一度ゆっくり回ってみたい町はどこだろうと思いを巡らせるとき、必ずこの町を思い出す。
 ここから出る普通列車は、ホームに入ってきたときには電灯がどの車両とも消えていた。宵闇は迫っていたので車内は真っ暗だった。しかし、発車して謎が解ける。すぐに明かりが点いたからだ。そして次の駅に止まるときにはまた消灯。つまり、自転車と同じ、自家発電だったのだ。駅に止まって暗い車内から見る外の景色は星が綺麗だった。


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手紙

 2度目の台湾旅行には、日本から親友を伴っていた。お互いやせっぽっちのくせに食いしん坊な僕たちは、おいしい処で有名な台南でまたたらふく台湾料理を満喫し、高雄に向かう夕刻の電車に揺られていた。
 車内に、僕たちに注がれているらしき視線を何度か感じた。その主は電車通学らしき女子高生からのものだった。僕たちは日本人らしく声のトーンを落として話をしているのだが、汲めど尽きぬ旅中の会話は、この電車の中では目立ってしまっているのかもしれない。しばらく、そのことが気になりながらも、彼との話には終わりというものがなかった。
 とある、何の特徴もない小さな駅のホームに電車が滑り込もうとするときのことだった。降車扉が開くと、そのすぐ横に座っていた僕に、降りようとする女子高生の手が出し抜けに差し出された。戸惑う僕らだったが、彼女の方も頬を赤らめていた。その指先に、小さな紙片が差し出されるようにはさまっていたのが見えた。それを受け取ると、彼女は満面の笑みで、無言のままホームに出ていった。
 ほかのどの駅とも同じように、電車はホームからゆっくりと走り出した。窓の外で、彼女は僕たちに手を振っていた。僕も、彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。そして、残された手紙に中国語でこう書いてあるのを、僕たちは知った。
「あなた方を祝福します。良い旅を」
 時は1997年、僕らはそのときまだはっきりと分かっていなかったが、台湾で日本贔屓の哈日族(ハーリーズー)が席巻しようとしていたその真っ只中に僕らはいた。今でもこのときの思い出は、学生時代の記憶の甘酸っぱさと同じ味をたたえて、僕の胸にある。

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