「地球の歩き方」の以前の版に、タイ人を知るキーワードとして「サヌック（楽しい）」「サバーイ（快適である）」「マイペンライ（気にしないよ）」が挙げられていたのを思い出す。そして、それがこの国を表すのに、簡単ではあるが最も的確なのではないかと改めて感じる。これらを「酒を飲んで楽しく騒ぎ、嫌な仕事はあっさり投げ出し、細かいことは気にしない」と読んでもまったく誤りではないと思うが、徹底的な個人主義に基づいて、人間関係に一定の風を入れ、その隙間を笑顔で埋めることに成功してるタイという国はまた、世界各地にチャイナ・タウンを形成する華僑たちを自国民としてそのアイデンティティまでをも巧みに取り込んでいる確信犯であることも忘れてはなるまい。
仏領インドシナと英領ビルマとに挟まれたところ、両国の力関係を活かして植民地化を逃れ、第2次世界大戦終了直前に抗日組織が主権を握ったことを基に敗戦国となることを回避したその老獪ぶりもまた、タイの一面である。「タイの微笑み」をもって、戦わずして局面を制するそのしたたかぶりが、この国今日の繁栄を約束したのではないかと感じている。
曖昧なジャパニーズ・スマイルが「引きの笑顔」だとしたら、タイのそれは徹頭徹尾「押しの笑顔」である。在タイがある程度まとまった期間になりつつある今、そんなことを様々なシーンで感じる今日この頃である。
