CUMPOON



南タイの陽光のように

 初めてのバンコクを失意のうちに過ごした僕は、まだ整備される前の、人が列を作らないホアランポーン駅の券売窓口にぽつんと突っ立っていた。まだ北に行こうかイサーンに行こうか南に進もうか、そんなことさえ決めていなかった。行き先なんかどこでもよかったんだ。でも、順番が回ってきた。適度に列車に揺られて着けるところ―それだけの理由で無愛想な駅員に告げた。「チュンポーン」。
 バンコクから離れると、人の雰囲気がみるみる変わってきた。ホアランポーンから一緒だった向かいの座席の女の子二人が話し掛けてくる。僕がタイ語をしゃべれないのが残念そうだった。隣の席のおじさんが食堂車に行ったり空いている席を見繕って座ったり、僕の隣の席をできるだけ空けておこうとする。僕が窮屈そうに見えたのだろう。9時間のち、「ここがチュンポーンよ」と女の子は明かりも薄暗い小さな駅を指差した。
 夕食に出ると、すれ違う街の人や食堂に集まった人たちの見る目が違う。ここでは僕はまさしく異郷者であった。かなり意識されていることが判るのだが、誰も話し掛けてはこない。まだ僕も初心な旅行者だった。みんなに見送られてひたすら静かにビールを飲んでホテルに引き揚げた。

 この町を出る日、荷を負ってバス乗り場へ歩いているとバイクタクシーのおじさんが声をかけてきた。バンコクでの調子が抜けない僕は「また客引きか」と無視したが、おじさんは僕の脇にバイクをつけ、英語で「どこへ行くんだ?」と訊いた。ラノーン行きのバスに乗るんだと言うと、彼は「ああ、それならあの先の角を右に曲がって突き当たったところだ。道は合ってるよ」と笑いながら走り去っていった。疑うことを身の安全だと履き違えていた僕には、疑われることに慣れていない南タイの普通の暮らしをしている人々は眩しすぎて直視できなかった。


大きな地図で見る

◆「あの人この街」目録へ
◆トップ・ページへ








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送