以前、疑問に思っていたことがある。タイ語とラオ語（ラオス語）・クメール語（カンボジア語）にはお互いに共通性があちこちで感じられるのだが、ヴェトナム語にはそれがまったく感じられないのはどうしてか。答えは簡単だった。ヴェトナムは中国から支配を受けていた時期が長く、現在のクォック・グーと呼ばれるローマ字表記が登場するまで、漢字を応用したチュノムという字が用いられていたからだ。華人の影響は東南アジアのどこにでも見られることだが、言語となると、国境を接している国々の中でもヴェトナムのケースは格別である。
実際、南部のサイゴン（ホーチミン）でさえ、中国の影響は街の至る所から圧倒的に感じられる。いわば、この国は東南アジアと中国の中間点。韓国に日本と中国の中間点を感じるのと似たようなものである。人々の顔つきや気質から言語、食事の味つけに至るまで、実に東南アジア圏と中華圏のベン図が重なりあった地域だと唸らされる。
ヴェトナムと韓国には、このほかにも幾つかの共通項がある。海に面した地域が多く、長い間中国の侵略に脅かされ続けてきたことに加え、冷戦の影響で国家が南北に分断された歴史を持ち、これらが理由となって兵の士気やスキルが高いといわれている。それゆえ、それぞれの近隣国である日本とタイは米軍基地の需要があって経済成長に一定の伸張が見られた。
大国の思惑を強く意識させる国、ヴェトナム。バイク洪水が車にとってかわったとき、この国が持ち始める独自性がどうなってゆくのか、今後を見守っていきたい。
