フリーペーパー・バックナンバー メニューに戻る
ぶらっと メニューに戻る

レヴュー01

美術

ザ・ビーチボーイズ『ペット・サウンズ』ジャケット
アート・ディレクション:トミー・スティーリー/フォト・リサーチ:ブラッド・ベネディクト

美術の心得が少ないもので、音楽アルバムのジャケットカヴァーのレヴューをします。今回は最近とみに再評価の声が高いビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』。あまりジャケットについて語られる機会がないのが気になっていたのだが、とても秀逸だ。

アルバム・ジャケットはその内容の音楽性を出来る限り反映するのが使命みたいなものだが、ペット・サウンズはなにげないフォト・セッションからの写真を用いて、このアルバムの楽曲が耳を捕えて放さない無垢で純粋で傷つきやすく不安定な要素を余すところなく表現している。普通、メンバーが動物に餌をあげているシーンの撮影だというと、ホノボノした風景なのだが、この写真には草食動物が持つ得体の知れない静かな不気味さと尾をふって集まってくる無邪気さ、そしてメンバーの作り笑顔では決してない浅い疲労の入り交じったほほ笑みがはっきり写されている。それにしても、デニス・ウィルソンは何もいないのに、なぜそこにあたかも動物がいるような視線を投げているのだろう?


書評

『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット・ジュニア(ハヤカワ文庫)

「好きな作家はだれか」と米国人に聞かれて「カート・ヴォネガットです」と答えた友人は首を傾げられたと言う。彼のようなドタバタしたストーリーを言葉のリズムで展開してゆく作家が邦訳されておもしろいのかという疑間が彼の首を傾けたようだった。言われるとおり、ライム()の踏み方などは訳されてしまうとさっぱり分からない。

『猫のゆりかご』は、穏やかな表情をした標題と相反してブラック・ユーモアとペシミズムに満ち満ちた壮大な物語だ。ボコノン教というとんでもなく間抜けな宗教がシニカルな主人公を虜にして行く過程に、奇妙な人物や会話や事件(ここに描かれる人物や事件に珍妙でないものはない)が交錯し、すてばちな冗談の山々が次第に肥大するに連れ、読み手にダウンなナチュラル・ハイが訪れる。そうして愚にもつかない世界の終わりがやって来る。この物語のユニークさはその世界の破滅がエンディングとはなっていないことだが、凍てつき殺伐とした「死んだ」世界でもなおかつ生き残った人々が繰り広げてしまう緩慢で愚鈍なやり取りが、どうしようもない救いのなさと温もりのあるヒューマニズムという水と油のはずの二者を等しいものとして読後の胸のうちにある重さで残されてゆく。この小説のざらついた風をしたり顔で聖なる言葉だとも、ただの悪い冗談だとも僕は言いたくない。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送