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みみたぶ通信

§2 なんか似てますねん。CDとストリート・ファッションって。@

前回と始まりが同じ内容で申しわけないけど、日本の音楽マーケットはかなり大きな市場になっている。百万枚突破、なんて言葉が涼しい顔をして造作もなく踊りまくっている(1)。簡単に言うけれど、これはとても大変なことなのだ。日本の人□をごくおおざっぱに一億人とすると、百人に一人がそのCDを買ったことになるのだ。うーん、この高齢化社会にあって、とんでもない数字だな、やっぱり。

 CDって、その名のとおりコンパクトなんだと思う、存在も含めて。LPはジャケットが大きくて、盤は傷がつきやすいので貴重な感じがして、それをターンテーブル(2)にのっけたりAB面を裏返して取り換えたりする行為もなんだかものものしくて、ちょっとした贅沢品だった。書棚にしまってあって、取り出すと部屋の湿っぽい匂いがかすかにしたものだ。CDには車のダッシュ・ボードがよく似合う。やたらと分離が良くて、重低音がびしばし決まって、高温がきらきら光るようなカー・ステ。音は軽々と時速百数十キロで駆け抜ける。車内にはエアコンと消臭材の匂い。

 また、LP時代からは考えられないくらいにソフトの流通が激しくなった。CDの音は半永久的に保存されるが、そのCDソフトは市場に次々と出ては端から消えて行く。そして廉価盤でまた再発売されたかと思えば、いつしか廃盤/製造中止になっている。全然大切に扱われていない。

 思いもかけないアルバムが復刻されたり、Q盤シリーズ(3)などの手頃な値段のCDが出たり、随分この風潮のお世話にはなった。それに、音楽ソフトが必ずしも大切に扱われなければならないこともない。お手軽に扱われるようになったということはポップになったということ、日常的になり市民権を得たということを証明しているのだろうから。音楽が盛んになることはちっとも悪いことではない。だから、CDが粗製濫造されていること以外には僕もそんなに文句を言いたいわけではない。ただ、ふとCDについて思い当たったことがあって、それがちょっとおもしろいことだから書こうと思っただけだ。

 日本のポップ音楽の隆盛とちょうど同じ発展を迎えたものがある。それは、若い男性のファッションだ。アイヴィーだとかニュートラだとかサイケだとか、これまでにも男性のファッションにいろいろな流行はあった。それでも、DCブーム(4)から始まる80年代以降の男性ストリート・ファッションの隆盛は規模が違う。アメカジから現在のモード、モッズ、B・ボーイ達はマイノリティや金持ちのボンボンではない。男の服は趣味や道楽ではなく、身だしなみになりつつある。
残念ながら女性のファッションのほうは僕もほとんど知らないし、それに男性ほど最近顕著に変わったわけでもないと思う。だが、女子高生・女子中学生でもたやすく次々と服を買えるような雰囲気ではなかったと思う。70年の末頃のビッグ・スタイル・ブームのときはまだそうだったと思う。

 CDとファッションの共通性は、同じ時期にブレイクしたことのほかにも幾つかある。まず、ポップになったこと。VAN(5)が牽引した日本のアイヴィーは細かな決まり事が多く、そのコードをはみ出したものはただの野暮天だった。ミニ・スカートやロング・スカートの流行も、その流行時にはほかのスタイルを受けつけない閉鎖性があった。それから考えると、今はミックス・スタイルが主流で、どんな「ハズシ」をするかが一つのファッション・テクニックになっている。はやっているものも百花線乱だ。CDも80年代以前は、例えはパンクが持て囃された時にはそれまでのロックの価値はすべて唾棄されるべきものに

 咳り下がったし(6)、第一、ポップ:・ミュージックはほとんどロックの独断場だった。それがワールド・ミュージック(7)のブームやサントラ・ミュージック(8)、ジャズ・ファンク(9)、モンド・ミュージック(10)などの再評価(と言うか、初めてのまっとうな評価)と多岐に亙ってポップ・ミュージックが捕えられることになった。これらはCD登場の後に起こった現象だ。

 それから、リミックスの取り入れ方も似ている。元来音楽とファッションは切っても切れない密接な相関関係のもとに相互影響しあって来たものだが(11)、テクノ(12)あたりを最後に、音楽界でもファッション界でも、新規なスタイルの打ち出しというよりは過去のサンプルのミクスチュアに拠るところが大きくなって来た。アシッド・ジャズやフレンチ・ポップス(13)、グランジ、モッズ(14)、テクノ・ヒッピー(15)などが次々と提案され、ひとつの山を作った。ポップスにしてもファッションにしても、もうかなりの新味を出尽しつくしたともいえるだろう(16)。しかし、二者がその分水崩も時を同じくしているのが興味深い。そして何よりも、新味な発掘が続いた時代よりは、こうしたコラージュの時代になって圧倒的な支持を集めたところがおもしろいではないか。いったいどういうことなのだ?

 いいところだが、次号に続く。

1 オリコン別冊で見ると、昭和43年から平成にかわる直前〔昭和63年)までのミリオン・セラー・シングルは42枚。平成元年から6年5月まででは58枚もある。そしてたぶん、CD化してからは特にシングルよりアルバムが圧倒的に売れているはずだ。それも考え合わせると、今の音楽業界の特需景気ぶりがよく分かる。

2 今ではDJ御用達だが、当時の一家に一台の大きなステレオのターン・テーブルに針を落とすのは、形容のしようがない、小さな「特別な時間」だった。

3 日本の多くの主だったレコード会社が、過去のカタログから旗刻するCDを協定により一定の規格、一定のプライスで販売しているシリーズ。ほとんとが干数百円という安価。

4  DCはデザイナーズ・ブランドの略。特に80年代には日本のデザイナーが圧倒的支持を集め、悔外でも初めてまともに注目された。コム・デ・ギャルソン、ワイズ、ニコル、ビギ、コム・サ・デ・モード、メルローズなど。

5 日本にアイヴィーを普及させた会社。圧倒的人気を誇り、それまであまり聞題にされて来なかった男のファッションに一躍脚光を当てた。コマーシャル戦略にも長け、常に話題を振りまいてきたが、1978年に倒産。その後、再建して現在に至る。


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