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みみたぶ通信

§4 年末恒例、今年の愛聴盤

 いやはや、「年末恒例」なんて言いながら、「木魚のひるね」自体、第一号から半年しかたってないのだった。これから年末の恒例行事にしようという意気込み(?)だと思ってほしい。

 さて、チャートにしてみましょうか。


@ ゲーンズブール・コンプリート[Vol.1〜9](セルジュ・ゲンズブール)
A Integrale(ジェーン・バーキン)
B Popee de Son(フランス・ギャル)
C A&M バート・バカラック・ソングブック(バート・バカラック)
D FLAPPER(吉田美奈子)
E THE EXOTIC BEATLES [Part One/Two](‐コンピレイション‐)
F 平成ワタブーショー(照屋林助)
G Daniela e felice(ミエッタ)
H サード(ソフト・マシーン)
I ポスト(ビョーク)


 去年まで邦楽以外ではソウル一辺倒だった僕だが、今年は、はまってしまった。ポップスまっしぐら。なかでも、@〜Bのセルジュ・ゲンズブール関係はもう病気ですな。部屋のポスターもカラフルな「スローガン」や「スタン・ザ・フラッシャー」にすっかり変わてしまった。渋谷系だとかなんとか言う前に、セルジュ・ゲンズブールはとにかく存在が圧倒的で、言葉選びが素晴らしい。いろんなところで彼の歌詞について言及されているので、少しでも読んでみてほしい。言い尽くされたことなのだが、彼を一躍有名にしたフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」の(B所収)元題は”Poupee de Son”といい、Poupeeは人形、Sonにはアイドルという意味とヌカという意味がある。つまり、ここでは「私は華やかな舞台に立つ人形のようなアイドルです」とライム・ライトを浴びつつ言いながら同時に「私はヌカでできたただのでくの坊です」と舞台裏を告白しているのだ。また、彼の代表作の一つ、[ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」(@A所収)ではジェーン・バーキンの「愛しているわ」という囁きに、セルジュは常に「俺もそうじゃない」とうそぶくのである。

 Cのバート・バカラックはソフト・ロック・ブームの昨今かなり再評価されているようだが、昔からカーペンタース好きで、クリストファー・クロスの「ニューヨーク一シティ・セレナーデ」を青春時代に過ごした僕には、かなり懐かしさも入っている。日本でヒットしたボサ・リオの「サン・ホセヘの道」が入っているが、この曲はこのヴァージョンがやっぱりいいのではないだろうか?
そしてやっぱり目がないはっぴいえんど/ナイアガラ/ティン・パン・アレイ(1)の系列のミュージシャン。

 Dは七六年に発表された彼女の代表作の一つで、大瀧詠一や細野晴臣、矢野顕子、山下達郎、佐藤博といった錚々たるメンバーが曲を提供している。バック・メンバーも圧倒的で、正に音楽のパノラマ。再編ラッツ&スターのカヴァーした「夢で逢えたら]のオリジナルも収録されている。部屋に取り付けたばかりの留守番電話に、嬉しがって「ラムはお好き?」のイントロを使ってしまいました。

 Eは僕、今度は友人の結婚式の二次会でエンドレスでかけまくってしまいました。ビートルズのカヴァーという共通項だけでディキシーあリレゲエありフォークありシタール曲ありポルカあり犬の吠え声ありの、けったいな国際幕の内弁当。日本からはあの「イエローサブマリン音頭」やツネマツマサトシのぐにゃぐにゃサイケ「ノーウェア・マン」、ちわきまゆみの「ア.ハード・デイズ・ナイト」が収められています、と言ったら雰囲気が分かってもらえるだろうか。Vol.1のフラメンコの「シー・ラヴズ・ユー」が痺れるかっこよさ。

 巻頭特集でも取り上げた照屋林助はセルジュと同じく存在そのものが圧倒的な人。十五年間レコーデイングをしなかった彼だが、今年はFに続く「平成ワタブーショー2」にオリジナル・フル・アルバムまで発表してくれた。彼が録音物をしばらく発表しなかった理由は、彼が手掛ける漫談、楽曲は時事ネタを基としているためだというのが理由のようだが、とあるレコード店の販促用小冊子に彼は「私が長く録音を残さなかったのは、だれも声をかけてくれなかったから」と発言している。しかも、そのときの聞き手はFのプロデューサー藤田正なのだ。このいいかげんさ、おかしさといったらない。

 Gはイタリアの人のようで、プロフィールを僕は全く知らない。Iと同じくテクノの最良の部分ではないだろうか。といっても、アプローチは両者ではかなり違う。同じポップ・テクノの立脚点ながらあくまでポスト・パンクであろうとするIは美的・静的な音のたたずまいが構築されていても、カラフルなポップ・チューンが奏でられてもあくまで分裂的な振幅を繰り返す精神性が反映されているのだが、Gは徹底的にスタイリッシュだ。時間のタテ割りごとに音像を変化させるアレンジなど、メリーゴーランドみたいだ。音もじつに涼しげ。

 Hが唯一の「ロック」になった。彼等は一応プログレに属するのだが、音が尖っている。くぐもった録音の向こうから一つ一つの楽器の放つパワーがゴリゴリとねじこんでくる。しかし、ニューヨーク・アンダーグラウンド(2)やパンクとは根本的に違う。ここにはフラワー・ムーヴメント(3)を基軸にした良く言えば快楽的な、悪く言えば楽観主義的なムードが充満している。でも、今日の「自分の好きな音聞いて何が悪いの」などというDJ的、あるいは渋谷系的な音楽快感垂れ流しに無自覚、または開き直り状況では僕の発言はすべて無効かもしれない。

1 はっびいえんどは細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂という後の音楽シーンに決定打を与える四人が揃っていたバンド。ナイアガラはその大瀧が主催した音楽レーベルで、シュガーベイブ(山下遼郎、大貫妙子ら)、伊藤銀次、布屋文夫、俊のシャネルズらがかかわった。ティン・パン・アレイは細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷政隆(松任谷由美の夫)というこれまたスゴイ布陣。日本にタイトでアーシーなバウンド感を持ったスタジオ・ミュージシャンズ・グループを目指し、名演を連発した。

2  アンディ・ウォーホール周辺人脈のルー・リード、ジョン・ケイルが中心となったヴェルヴェット・アンダーグラウンドや奇才イギー・ポップを擁するストゥージーズ、トム・ヴァーラインのテレヴィジョンなど、パンクの先駆けと言われる一連のグループの総称。

3 ヒッピー・カルチャーに支えられた動き。しばしばドラッグを用い、幻覚症状による陶酔感に新しいリアリティを見いだした。


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九六年 師走


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