フリーペーパー・バックナンバー メニューに戻る
ぶらっと メニューに戻る

レヴュー16

書籍 「アジアの誘惑」下川裕治(講談社文庫)

あなたがもしタイ・カレーのルーだとかトム・ヤム・クンのペーストなど、タイの食材をお求めになる機会があったら、貼られているラベルに載っている輸入会社の住所に「荒川沖」という地名を見つけることもあるだろう。茨城県土浦市に程近いそこはかつて「リトル・バンコク」と呼ばれた。この文庫本の最後に収められている「荒川沖のタイ人たち―微笑みの結末」には、日本に流れて来たタイ人たちがどのようにこの町に集まり、そしてどのように喧騒を終えていったのかが、あくまで著者の体験談として語られている。

バブル著しかったかつての日本はアジア諸国からは憧れの国だった。彼等・彼女等の夢がこの国でどのように変質し、どのような構造が荒川沖を支えていたのか。楽天主義と売春と金回りと不法入国と。そこには今回特集でも触れた街の「ヒカリとヤミ」が渦巻いている。題名にある微笑みの結末は、ヒマな折りにでもこの本を手にしたあなたが出してほしい。

「十二万円で世界を歩く」の著者として名を知られた彼が、気軽なアジア貧乏旅行のライト・エッセイ集の巻末にこのエピソードを書いたことが、ライターとしての良心だと思う。



イヴェント   平成不況

昔、ある会社が倒産したらしくって、そこの社長さんが作家の筒井康隆さんに嘆いてみせたら、筒井さんは「人生のうちでそんなおもしろい体験は買ってでもできるもんじゃない。その顛末を詳しくメモして後でまとめなさい」って言うたとか。でもなあ、この不況やったら、もう珍しい体験とはちゃうよなあ。バブルも不況も経験したっていうことだけで言うたら、僕等は又とない経験をしてるんやろうけど、「歴史の一コマに生きてる」雰囲気なんて、そんなん、学生運動の時代に生きてても幕末の時代を過ごしても同じやん。

平たく言うたら、あんまりおカネが動かへん状態が不況なんやけど、それってつまり、消費者の購買意欲が減ってるからやん。ほんだら、なんで購買意欲が薄らぐんや? いろいろ言うやんか。曰く、公定歩合引き下げの思い切りのなさ。曰く、アジア経済危機の蔓延。曰く、土地神話の崩壊。……きっかけになったんが何なんかはよう判らんけど、確実に言えるのは、世相が煽りまくったってこと。顔突き合わしたら「梅田のゴルフ・ドームの跡地、いつまで空き地やねん」「西武はファミリー・マート手放してんてなあ」「大卒の就職率、△□%になってるらしいで」「ガソリン・スタンドやめてしもうた所、最近ホンマぎょうさん見るわ」。そらねえ、そんなんみんなで寄ってたかって言うてたら、誰でも景気ようないなと思うで。モノ買う気なくなるで。ケチりたなるで。日本人って、暗めの、重めの世間話とか噂話が好きやん? その体質に不況ネタはぴったりやったんちゃう? やとしたら、これは流行(ブーム)やで。こんなに一世を風靡した流行、ひょっとしてミニスカートかダッコちゃん以来ちゃうの? え、不道徳? 僕もそれなりには火の車なんや。同じ穴のムジナっちゅうことで堪忍、堪忍。学生運動も幕末も、言うたら祭りやんか。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送