ミエッタ
"Tu Sei Te";"Daniela E' Felice"所収

 90年代中ごろの街は、普段着としてのスーツなんていう選択もありだった。モッズ・リヴァイヴァルが「クール・アイヴィー」なんて名称で囁かれたりして、タイトな着こなしが身上だった。ただ、ドレスコードでがちがちな本来のモッズやVANの頃のアイヴィーとは違い、どう着崩すかが見せ場でもあったし、また一方で、黒ずくめでいさえすればいいコム・デ・ギャルソン全盛の80年代DCブームとも違って、どうかわいさまで取り込んでゆくかも命題だった。今から考えればなんだか狐につままれたような流行だったが、そのときは真剣だった。
 その形容は、そっくりそのまま同時期のミエッタにも当てはまった。シーケンサーのパターンがほとんどの音を埋め尽くしてクールなのだが、要所にサウンド・コラージュや生楽器、コーラスや喋り声が挿入されていて、凝り固まらず取っつきやすい。ミエッタ自身のヴォーカルは決して上手くないのだが、こうしたタイトでクールなバック・トラックとパーティー的躁状態とに上手く溶け込んでいて、彼女も一パーツとして全体で曲が仕上がっている感じがする。
 だから、その頃は出かける前に部屋でこのアルバムをよく聞いた。ヘア・ワックスで髪をいじったり鏡の前で重ね着の色合いのチェックをしたりするのにぴったりの気分だった。でも、そういうことはあとから思い出すとたいてい恥ずかしい。曲は今聞いてもいいのに、苦いものが混じるのはそのせいだ。同時に、それとはまったく反対だが、不況の中にありながらも今日を明るくスタイリッシュに生きようとしていたあのときの空気感が、とても懐かしくて胸が痛くなる。

※ イタリア語フォントを使用しないと表記できない文字は英語・アルファベット表記とさせていただきました。どうぞご了承くださいませ。



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