1987年の夏、浪人生の僕の家に、心斎橋の中古レコード店パワーハウスの店長さんから電話があった。
「はちみつぱいの『センチメンタル通り』が再発されましたよ」と彼は言う。
「ああそうですか」と気のない返事をして、僕は受話器を下ろした。
――お恥ずかしながら、その頃はムーンライダーズのアルバムでさえまだ揃えていないものが多い状態で、僕はまったくはちみつぱいのことを知らなかった。
でも、わざわざ連絡してくれるんだから、貴重な盤だったんだろう、その程度の気分だった。

店長さんはそのアルバムのレアさとともに、どういう魅力のあるアルバムなのかを、心は熱く語り口は優しく話してくれて、僕は勧めてもらった椅子にかけながら頷いている。
数日後にパワーハウスを訪問した店内での風景である。
ムーンライダーズ、はっぴいえんど、ザ・バンド、ボブ・ディラン、バーズ、カントリー・ロック、フォークといったイディオムにピクピク反応しながら、僕の胸も熱くなっていく。

「いくらですか?」 いかにも大阪人らしい言葉を、僕は店から帰りがけに発した。
「あ、いや、再発なので、うちにはないです」 店長さんはそう言った。
「え!?」
一瞬混線したが、結び目がほどけはじめると、店長さんの笑顔にくぎづけになった。
あの電話は入荷のお知らせなんかじゃなかったんだ。
僕が日ごろどんな棚を漁っているか見届けてくれていた店長さんが、店長としてではなく音楽好きどうしのよしみでかけてくれた電話だったんだ。
そして今しがたまで30分あまりも教えてくれた「センチメンタル通り」にまつわる素敵なお話は…

店を後にして数十分後に、僕は他の店のビニール袋に入った一枚のLPを手に歩いていた。

そういえば学校をさぼった日のシェルターになってくれる店もいくつかあったなぁ。

ノスタルジーに浸るひと時、はちみつぱいの奏でる音はそのど真ん中を川のように流れていく。


=90年代の記事=

 イントロがない曲を、何時の頃からかあまり耳にしない。キャッチーなイントロのリフとすぐさま続くいきなりのサビでつかんで、CDメガ・ストアの試聴機からレジへ直行させる曲やアルバムが求められて久しい。そんな時勢で、イントロなし、いきなり地味なAメロから、というのは現実的でないのだろう(カラオケでも歌いづらい)。
 そんな曲、「塀の上で」から始まるはちみつぱい唯一のLP「センチメンタル通り」は、十代の最後あたりの年齢だった頃僕のステレオには欠かせない一枚だった。「浪人生」という名の無職者であった僕はあてどない70年代日本の若者の気だるくほの暗い青春とを重ね合わせて重ね合わせて見ていた。

長椅子に凭れ 八月の声を聞く頃ともなると
ただ歳を取るばかりで ただ歳を取るばかりで

「薬屋さん」

待ち草臥れて 爛れた夏は 土手の向こうに 打ち捨てといて
倦怠い君も 土手の向こうに 埋めてしまった

「土手の向こうに」


 思えば十代、二十代は謳歌するものではなく浪費するものだった。大人が語る時の速さとは違うスピードを無駄に生き急いで、つまらないことにこだわって大きなバカな夢を見ていた。「苦いくわえ煙草が目に染みて、苛立つ涙を拭って空を見上げれば、僕はどうでもよかったんだ」(釣り糸)という季節はいつしか過ぎ去り、若き酔いどれどもの路地には刃が生暖かい夢を抉る時代が訪れていた。


ALBUM

センチメンタル通り
A面
@塀の上で
A土手の向こうに
Bぼくの倖せ
C薬屋さん

B面
@釣り糸
Aヒッチハイク
B月夜のドライヴ
Cセンチメンタル通り
D夜は静か通り静か

セカンド・アルバム イン・コンサート
@酔いどれダンス・ミュージック
Aウエディング・ソング
B釣り糸
C大寒町
D大道芸人
E煙草路地
Fキネマ館に雨が降る
G君と旅行鞄
H月夜のドライブ
I夜は静か通り静か
Jハートのクイーン
K恋は桃色
Lさよならアメリカ、さよならニッポン
M塀の上で

9th June 1988 はちみつぱい Live
disk1
@煙草路地’88
A薬屋さん
B土手の向こうに
Cこうもりの飛ぶ頃
Dダーク・スター
Eねこのねごと(高田渡)
Fスキンシップ・ブルース(高田渡)
G流行ものには目がないわ(高田渡)
H生活の柄(高田渡)

disk2
@夜は静か通り静か
A東京
Bセンチメンタル通り
C夢の中
D骨
E甘いワイン(斉藤哲夫)
Fハレルヤ(斉藤哲夫)
G悩み多き者よ(斉藤哲夫)
Hおいしんぼ倶楽部
IY.Y.Y.

disk3
@赤色エレジー(あがた森魚)
A摩天楼に眠る児(あがた森魚)
Bサントワ・マミー~大道芸人(あがた森魚)
C塀の上で
D煙草路地
E月夜のドライヴ
Fアイ・ラヴ・ユー
Gぼくの倖せ

disk4
@Intermission(駒沢裕城/武川雅寛)



my best song 薬屋さん
my best album センチメンタル通り
my best lyrick 薬屋さん
my best music 塀の上で
my best arrange 月夜のドライブ




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