彼女が痛みを抱えていることは咄嗟に解った。ラヴ・タンバリンズの頃の、「技術的な部分と、あとは女の勘みたいなものでやっていこう」という日本的で大雑把な声じゃなかった。"Biches in Zion"に流れていた彼女の叫びは、背後が切り立った崖であることを否が応でも思わせた。だからこそ、甘えたささやき声に間髪いれず図太いシャウトが繰り出されたりして、彼女のここでの歌い方は奔放というよりは破れかぶれに紙一重のところでいる。その後、インタヴューでEllieは「子供もダンナも、歌いつづけていくためには、歌だけに生きるためには身の近くに抱えてゆくわけにはいかなかった。バンドも友達も失った。なにもかもなくした。歌のほかには」というようなことを語っていた。半裸でジャケットに写る彼女は小学生のように引っ込み思案な目をしながら同時に歳を重ねた娼婦の錆びついた表情をしていた。身体をくねらせエロスを醸しながら、他の女性の裸体が裸であるのに艶かしさという服を着ているのに対して、彼女は本当に何も身につけていないから僕は強烈に彼女に恋したし、同時に彼女を空恐ろしく感じた。

 痛みを吐き出すスタイルの女性シンガーは多い。少なくとも、本当はちっぽけだから自分の痛みを正直には叫べない男性とは違って、女性はいざというときには自分ひとりのことを高らかに歌い上げることができる。しかし、彼女の声はもちろんナルシシズムでもなければ傲慢でもない。そして、もともと何かが損なわれていたからそれを歌にする人が持つ、わけの解らない破綻と再生の力はここにはない。Ellieがここで聴かせるのはプロとしてやってゆくためにちょっとした喉と音楽性と勘のよさを持ち合わせた一人の女の子が、R&Bという悪魔の本質に気付き、それでも自分をすら供物として歌に昇華しようとしたストーリーなのだ。

 藤原ヒロシとのコラボレーションののち、彼女の名を表立って聞くことはほとんどなくなった。それは当然だろうと、僕らは風の吹く公園で友と話す。その強い風のせいで、友人の煙草はすぐに燃え尽きた。


ALBUM

ELLIE
Biches in Zion


my best song Kiss You
my best album Biches in Zion
my best lyrick 
my best music 
my best arrange Kiss You




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