80年代という軽薄な時代は、あの当時流行った「パブ・ミラー」に象徴される。オープンカーや椰子の木立ちやサーフボードや砂浜なんかのイラストを鏡にカラー・コーティングした代物で、はっきりした原色のベタ塗りが透明感を懸命に打ち出そうとしていた。鈴木英人永井博のポスターは本当にどこにでもあったし、バドワイザーやクアーズのネオンをわざわざ買って部屋につけている友人達もいた。それがその当時はかっこよく見えた、のか? いや、そういうわけでもない。当時の友人の一人が“A Long Vacation”を「ミーハーなLPばかりですまん」と言いながら貸してくれた記憶もある。映画「カクテル」かわたせせいぞうの漫画「ハートカクテル」気取りで洒落者を演じるのは、少しこっぱずかしかった。また、格好をつけるのに衒いが残るいい時代でもあった。

 “A Long Vacation”は、そんな80年代の代表的アルバムのように言われたりもする。しかし、その意匠はどちらかというと大瀧詠一のものではなく、作詞を担当したはっぴいえんど時代の盟友、松本隆のセンスによるような気がする。大瀧自身がのちのインタヴューで繰り返し語っているように、このアルバムで彼が見せたのは、自身が最も得意としたアメリカン・ポップスを原風景としたファースト・アルバムからの流れに直結した作曲法であり、レコーディング・テクニックを駆使した、現在聞いてもきわめてハイ・クォリティーな録音技術の粋である。あのイラストやあの時代の空気が古めかしくなっていったのと同じように色褪せたのは詞の描く風景だけだと僕は感じている。

 だが、そんな彼のあのアルバムが今でも若い頃の記憶と結びついてひときわ甘酸っぱさを放つのは、大瀧自身が「アメリカン・グラフィティー」を愛する男であったからではないだろうか。

 ただ、僕が図抜けて好きな彼のアルバムは、実はその「ロンバケ」ではなく、ナイアガラ・レーベル発足後の彼の第一弾“Niagara Moon”だ。ここでの彼は、ファースト・ソロ作の「大瀧詠一」の“A Long Vacation”にもつながるダイレクト・アメリカンな手法ではなく、ノベルティー・ソングの形を取ってメレンゲやディキシー・ジャズ、クレイジー・キャッツ・スタイル、ドゥー・ワップ、ニュー・オーリンズ・ファンクなど多彩な音楽性を一枚に詰め込みながら、ドライな音質なのにコミカルなトータリティーを獲得している。

 あまりにそれが完璧だったがために、その後の彼はこの路線を堅持しながら“Niagara Moon”を越えられないことに苦悶したが、同様のことが“A Long Vacation”でも起こった。そういえば「大瀧詠一」収録の「指切り」で、とりあえず録ってみた最初のヴォーカル・テイクを何度取り直しても越えられず、結局最初のテイクを採用したという逸話があるが、そういう肩の力の抜けたときに発揮される思いもかけない力と、物事に徹底的に凝るタイプの人間が持つ集中力とが、大瀧の仕事の素晴らしさであると同時に、それを長く求道しながら積み重ねて到達してゆく過程を描いてキャリアを示しながらやってゆくことのできない悲劇も併せ持っているように僕は感じる。ファンや関係者は彼の「次」を心待ちにしているようで、僕もつい最近まではその一員だったが、近頃では彼には半隠遁が必要なのだと考え至るようになった。今のところ彼の最後のシングルとなる作品名に準えて言えば、いかにもジャパニーズ70's、80'sライクな超名盤を残した一撃必殺型の彼の音楽歴は、この闇雲にデジタライズされた窒息しそうな90年代以降、幻としておいたほうが「幸せな結末」なのではないかと。


僕にとっての大瀧詠一

「ワールド・スタンダード」の鈴木惣一朗が、たしかラジオ放送「デイジー・ワールド」で、音楽性の広さと感性の面で深く理解しあえる小西康陽との衝撃的な出会いを、細野晴臣に語っていた。小西のピチカート・ファイヴとワールド・スタンダードはともに、細野が1984〜7年まで開いていたノン・スタンダード・レーベルから巣立ったユニットである。≪小西との出会いは素晴らしいものだった。一方で、小西は音楽の可能性を信じないところからスタートしていたが、自身は、存在が危うくとも、あくまで音楽の未来への夢を信じるところからスタートする人間だった≫という鈴木の言葉に、胸がじんときた。小西康陽のポスト・パンク精神がもたらす、映画的なカット・アップの鮮やかさを、僕は、90年代の日本ミュージシャンの中で最も素晴らしい収穫だったと思い続けている。それでも、鈴木惣一朗が言う「夢」を、僕はできるだけ信じたいと、強く心で叫んでいた。多くの音楽ファンの皆さんと同じように、ジョン・レノンとともに"Give Peace a Chance"を歌えることを夢想したことのある男性には、この気持ちの片鱗がきっとわかってもらえるものと思う。

そこでハタと気がついたのは、小西康陽はどちらかというと細野ではなく大瀧詠一の系譜にある人なのだということだった。大瀧もまた映画的な音楽志向が強く、相当なレコード・コレクターで、音楽をレコーディング側から究めているところも共通している。フリッパーズ側では小山田圭吾がYMOメンバーとの共演が多いように、こちらが細野ファミリーといえるところも、いかにもピチカートとフリッパーズの関係を象徴しているように見える。

大瀧の用意した映像がドリーミーなアメリカンであれば、ピチカート・ファイヴがクールでキューティーなヨーロッパものであったように、大瀧詠一は音楽の可能性を信じている側の人間である。1970年代という、日本の音楽史にあってきわめてエポック・メイキングな時代の真っ只中で日本のポピュラー音楽の可能性を切り開いてきた第一人者である彼は、ポスト・パンクという言葉の表層的なイメージとは水と油のように見える。だがその一方で、大瀧は優れた分析家であり、評論家であることも、僕たちは知っている。スピリチュアルなものからではなく、自分がこよなく愛してきたオールディーズのエッセンスをどう配合して化学反応を起こさせようかと、自身のスタジオで練りに練り上げてきた彼の姿勢は、やはり小西に通じていると感じるのだ。つまり、言い換えれば、シーンの可能性を切り開いてきた大瀧と、シーンの可能性などないと言い切ったところから音楽をスタートさせた小西が、ともに目指したベクトルとその方法論が近似していたということである。そして、こういう奇蹟の起こりうるレンジの広さをもったところに、音楽という場所の可能性を、僕はいまだに感じるのだ。

リスナーとしての音楽感覚をささやかなモットーにしている僕もまた、大瀧詠一が夢を見せてくれた音楽の持つ可能性を信じる側の末席に座っている気でいる。


ALBUM

大瀧詠一   1972年
A面
@おもい
Aそれはぼくぢゃないよ
B指切り
Cびんぼう
D五月雨
Eウララカ

B面
@あつさのせい
A朝寝坊
B水彩画の町
C乱れ髪
D恋の汽車ポッポ第二部
Eいかすぜ!この恋

Niagara Moon   1975年
A面
@ナイアガラ・ムーン
A三文ソング
B論寒牛男
Cロックン・ロール・マーチ
Dハンド・クラッピング・ルンバ
E恋はメレンゲ

B面
@福生ストラット(Part=II)
Aシャックリママさん
B楽しい夜更し
C君に夢中
DCIDER'73'74'75
Eナイアガラ・ムーンがまた輝けば

Niagara Triangle Vol.1   1976年
A面
@ドリーミング・デイ
Aパレード
B遅すぎた別れ
C日射病
Dココナツ・ホリデイ'76

B面
@幸せにさよなら
A新無頼横町
Bフライング・キッド
CFUSSA STRUT Part-1
D夜明け前の浜辺
Eナイアガラ音頭

Go! Go! Niagara   1976年
A面
@GO! GO! Niagaraのテーマ〜Dr.Kaplan's Office
A趣味趣味音楽
Bあの娘に御用心
Cジングル:ベースボール
Dこいの滝渡り
Eこんな時、あの娘がいてくれたらナァ

B面
@ジングル:月曜の夜の恋人に
A針切り男
Bニコニコ笑って
Cジングル:ナイアガラ・マーチ
DCobra Twist
E今宵こそ
F再びGO! GO! Niagaraのテーマ

Niagara CM Special Vol.1   1977年
A面
@Cider'73'74'75'77
ACider'73 B-type〜C-type
Bアシアシ〜サマー・ローション
C若返り〜丈夫な夫婦〜コメッコ〜ココナッツ・コーン
Dジーガム 英語〜A-type〜B-type
Eクリネックス〜どんな顔するかな〜ムーチュ
FドレッサーI 30"〜15"〜ドレッサーII
G土曜の夜の恋人に

B面
@Cider'73'74'75'77(Vocal & Inst.)
ACider'73'74'75'77
Bクリネックス
CドレッサーII〜III(Vocal & Inst.)
D土曜の夜の恋人に(Vocal & Inst.)

多羅尾伴内楽團Vol.1   1977年
A面
@Mr.Moto〜霧の彼方へ
AThe Last Leaf〜悲しき北風
BMandshurian Beat〜さすらいのギター
CKarelia〜霧のカレリア
DTell Him〜悲しき打明け
EForever〜フォーエヴァー

B面
@Yuki Ya Kon-Kon〜雪やコンコン
AYuki No Furu Machi o〜雪の降る街を
BLonely City〜霧の中のロンリー・シティー
CTelstar〜テルスター
DOut Of Limits〜アウト・オブ・リミッツ
EBlue Star〜ブルー・スター

Niagara Calender '78
A面
@Rock'n'Rollお年玉
ABlue Valentine's Day
Bお花見メレンゲ
CBaseball-Crazy
D五月雨
E青空のように

B面
@泳げカナヅチ君
A真夏の昼の夢
B名月赤坂マンション
C座 読書
D想い出は霧の中
Eクリスマス音頭〜お正月

多羅尾伴内楽團Vol.2   1978年
A面
@Ride the Wild Surf〜太陽の渚No.1
ABeach Bound〜ビーチ・バウンド
BBlack Sand Beach〜ブラック・サンド・ビーチ
CMoondawg〜ムーン・ドーグ
DCruel Surf〜クルエル・サーフ
ESurf Party〜サーフ・パーティー
FAjoen Ajoen〜心のときめき

B面
@In the Still of the Night〜イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト
AThe Surfer Moon〜ザ・サーファー・ムーン
BJava〜ジャワの夜は更けて
CSome Enchanted Evening〜魅惑の宵
DParadise Lost〜パラダイス・ロスト

Debut   1978年
A面
@ナイアガラ・ムーン
A楽しい夜更し
B福生ストラット Part2(mono)
C恋はメレンゲ(mono)
Dあの娘に御用心'78
Eウララカ'78

B面
@趣味趣味音楽 (live)
Aニコニコ笑って (live)
B空飛ぶくじら (live)
C水彩画の町'78
D乱れ髪'78
E外はいい天気だよ'78

Let's Ondo Again (多羅尾伴内楽團Vol.3)   1978年
A面
@峠の早駕籠
A337秒間世界一周
B空飛ぶカナヅチ君
C烏賊酢是!此乃鯉
Dアン・アン小唄
Eピンク・レディー

B面
@河原の石川五右衛門
Aハンド・クラッピン音頭
B禁煙音頭
C呆阿津怒哀声音頭
DLet's Ondo Again

A Long Vacation   1981年
A面
@君は天然色
AVelvet Motel
Bカナリア諸島にて
CPap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語
D我が心のピンボール

B面
@雨のウェンズデイ
Aスピーチ・バルーン
B恋するカレン
CFUN×4
Dさらばシベリア鉄道
Niagara Triangle Vol.2   1982年
A面
@A面で恋をして
A彼女はデリケート
BBye Bye C-Boy
Cマンハッタンブリッジにたたずんで
DNobody
Eガールフレンド
F夢見る渚

B
@Love Her
A週末の恋人たち
Bオリーブの午后
C白い港
DWater Color
Eハートじかけのオレンジ

Niagara CM Special Vol.2   1982年
A面
@A面で恋をして〜風立ちぬ〜Lemon Shower〜
A大きいのが好き〜UFO〜ハウス・プリン〜レモンのキッス
BBig John A〜Big John B〜冷たく愛して〜
CGood Day Nissui〜MG5
Dオシャレさん〜大関〜出前一丁〜
EHankyu Summer Gift〜悲しきWalkman'81〜Marui Sports

B面
@CM Special Vol.2
ASpot Special
BInstrumental Special
CA面で恋をして Narration
DA面で恋をして A Cappella
EA面で恋をして Tracks Only

Each Time
A面
@魔法の瞳
A夏のペーパーバック
B木の葉のスケッチ
C恋のナックルボール
D銀色のジェット

SIDE B
@1969年のドラッグレース
Aガラス壜の中の船
Bペパーミント・ブルー
Cレイクサイド ストーリー



my best song 論寒牛男
my best album Niagara Moon
my best lyrick 指切り
my best music 雨のウエンズデイ
my best arrange 論寒牛男



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Ami-go Gara-ge


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