佐野元春

 佐野元春のことが好きだというのは、ご本人にはとても失礼だが、僕にとっては若干恥ずかしいことだった。当時、彼は自身の楽曲の歌詞について「非常に複雑な意味を持っている」というような発言を繰り返し、いかに歌詞にメッセージを込めているのかを力説していた。だが、80年にデビュー・アルバムを発表した佐野元春の歌詞には「キッズ」だとか「ジェネレーション」だとか、スタート時点ではいかにも80年代のクリスタル世代的なフレーズが多かった。また、とりわけ複雑で個人的だと語っていた心情を「I'm angry I'm so angry この気持ちは消えない」と直截な言葉で表現する彼を見ていると、その思いと力量が乖離しているように感じられた。その気分は、とあるファンの彼に寄せた投稿で「『欲望のヴォルケイノ』では意味が解らない。もっと僕たちの心にストレートに響いてくる言葉を歌ってくれていた元春さんはどこに行ったのか」と訴えていたことによく表れている。

 また、彼の曲想とアレンジは、明らかに出所が分かるものが多かった。"SOMEDAY"がブルース・スプリングスティーンの"Hungry Heart"から、"Youngbloods"と"Individualists"がそれぞれスタイル・カウンシルの"Shout to the Top"、"Internationalists"からスタイルを拝借したものであることは、多くの人が耳にした瞬間に理解できたことだっただろう。それはオマージュというにはあまりに近似しており、また、触発された元ネタの楽曲が同世代的すぎた。

 しかし、時代はサンプリング/コラージュの90年代へと突入してゆく。ヒップ・ホップがもたらした「元ネタ加工作品」という意識は瞬く間に渋谷系の名で90年代の日本のポップ・ミュージック界を席巻し、やがて、バンドやミュージシャンに対するオマージュをそのまま自身の方向性に直結させたサニーデイ・サービスのようなバンドも登場するようになった。また、この90年代のポップ・カルチャー百花繚乱状態によって、ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズなど、ビート詩人たちの存在も、大きくではないがクローズ・アップされるようにもなった。時代は佐野元春の指向した音楽の在り方にシンクロして、彼の「時代の感性」を裏付けることとなった。

 いつの時代でも、ミュージシャンが他のミュージシャンから影響を受け取ることで、音楽は成長してきた。圧倒的なオリジナリティーを誇るムーンライダーズの楽曲の中でさえ、"Modern Lovers"は明らかにポリスを下敷きにしていたことを誰もが嗅ぎ取ったことだろう。だから、「ポップ音楽が盗用に満ちた歴史を送ってきたのと同様、ソング・ライターが自身の音楽探求のためにそれをするのはOKだが、金策のためにそれをやろうとする輩は許せない」という佐野元春の気分はよく解る。ここでポイントになるのは、この「自身の音楽探求」の部分。音楽を掘り下げようとするとき、自身が触発されることは大いに結構。ただ、咀嚼なくしてダイレクトにそれを取り込むことにはいささか疑問が残る。佐野元春の孕んでいた危うさはそこにある。そう、彼の80年代を考えるテーマの一つはこのダイレクト性。彼の歌詞についても、同様の見解が成り立つはずだ。これを換言すれば、80年代の彼の情熱は眩しすぎたのだ。拳を突き上げてロックン・ロールの未来を垣間見せたスプリングスティーンに憧れ、ボブ・ディランやジャック・ケルアックに心酔した佐野元春は、あまりに裸のロック青年だった。そのひたむきな純情ぶりに、僕は衒いを覚えたのだった。


ALBUM

BACK TO THE STREET (1980.04.21)
Heart Beat (1981.02.25)
SOMEDAY (1982.05.21)
VISITORS (1984.5.21)
Cafe Bohemia (1986.12.01)
ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 (1989.06.01)
TIME OUT! (1990.11.09)
sweet 16 (1992.07.22)
The Circle (1993.11.10)
FRUITS (1996.07.01)
THE BARN (1997.12.01)
Stones and Eggs (1999.08.25)
THE SUN (2004.07.21)
星の下 路の上 (2005.12.07)


my best song Individualists
my best album No Damage
my best lyrick Night Life
my best music Chlistmas Time in Blue
my best arrange Complication Shakedown




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