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瑠璃の島
 沖縄諸島の小さな島が舞台となっていて、からっと明るいヒューマン・ドラマとくれば完全なる僕の琴線。
 緒方拳と成海璃子(初主演)の親子の好演が果たす力は大きい。
 ここでの竹之内豊の、多くを語らない陰のある男役は、ドラマを希望のある方向に大きく引きたてている。
 岸部一徳は器用な俳優ではないと思うが、木訥で誠実で、ちょっとお茶目な校長がはまり役。
 さらなる続編を期待していたが、緒方拳の逝去により、次回作が期待できなくなったのは返す返すも残念でならない。
 コブクロの歌う主題歌「ここにしか咲かない花」はこのドラマのために書き下ろされており、内容との素晴らしいマッチング。
 2007年のスペシャルは竹之内豊が登場せず、そのぶんだけ印象が薄い。

がんばっていきましょい
 第一話から名ゼリフの連発でノック・アウト。
 昭和の香りもする、学園モノの魅力が炸裂。
 女子ボート部という珍しい学園スポーツものの設定が新鮮。
 関西テレビは小日向文世を滋味深く温かな男子ボート部OB役に使い、彼の演技力がそれを厭味に見せない。
 主人公の「悦ねえ」を演じる鈴木杏の熱演が素晴らしい。
 骨っぽい男を感じさせる中田三郎役が、内博貴から急遽、中性的魅力の田口淳之介にバトンタッチしているのが残念。
 池内博之の通称「オノケン」コーチ役が、いかにもな味を出している。

絶対彼氏
 ベタで先の読めるストーリーだが、ギャグの切れがよいのと、胸にくるシーンの多さで完全にカヴァー。
 速水もこみちのロボット彼氏役は非常に精緻。あくまでロボット然とした前半から、人間性を獲得してゆく中〜後半の雰囲気の違いをうまく使い分けている。最近の彼の演技には本当に、アッと驚かされる。また、そのロボットのセリフが何度観ても泣かせる。
 相武紗季の一途な女と、水嶋ヒロの遊び人だが誠実な男の好演も光る。
 佐々木蔵之介の陰陽に振れ幅の大きい演技も特筆モノ。
 個人的には恋愛もので、恋の行く末が二転三転するものは好みではないが、爽やかなストーリー作りと、ロボット+生身の人間の組み合わせでこれを凌駕している。
 絢香の主題曲「おかえり」は主題歌としてぴったり。

野ブタ。をプロデュース
 学生時代の甘さと酸っぱさを十二分に味わわせてくれる。
 こちらも名ゼリフの連発。
 主人公の「修二」のキャラクターの一部が、学生時代の自分に一部かぶっている気がして、思わずのめり込んでしまう。
 堀北真希のいじめられ役は、彼女の王道的はまり役。
 不思議な高校生の役どころを担当した山下智久は、これまでダークな性格のキャラクターをあてがわれることが多かったので本作では当惑したそうだが、監督の「スピーディーな演技を」との指導とまったく逆を行くぽよーんとした演技がかなり当たっている。

HERO
 さすが全話視聴率30%越えのメガ・ヒット作。
 ライト・タッチでいながらコクのあるストーリーに思わずのめり込んでしまう。
 テンポやカット割りが新鮮で、飽きさせない。
 検事という職業にスポットが当たっていることが新鮮。
 各検事のキャラクター設定にぶれがなく、有機的な絡ませ方がうまい。
 通販やバーの店長といった小道具・脇役の使い方が見事。

JIN-仁-
 タイム・スリップを医療の世界で展開するというアイデアが素晴らしい。
 大沢たかおの主演は安定感がある。
 綾瀬はるかにも、たしかに相変わらず好感が持てる。
 数少ないながらもこれまで見た中では、内野聖陽の役柄としてこの坂本竜馬が飛び抜けて光っていると思う。
 柴崎コウの美人芸者役を見て、失礼ながら初めてこの人がどういう美しさを持っているのか理解できた。

薔薇のない花屋
 主人公の香取真吾が棒読み調の台詞で焦ったが、登場人物としての性格的問題を反映したものだと知ってホッとした。
 展開に無理のある部分が多いが、うま味のあるストーリー展開に強引に持っていかれてしまう。
 竹内結子はなかなか難しい役どころを頑張っていて愛らしい。

新参者
 刑事ものでありながら、事件の解決そのものではなく、捜査過程で発覚するヒューマン・ドラマが一話ずつ展開される意欲的な作り。
 阿部寛の役どころは、非常に板についており、安定感が素晴らしい。
 第1話に登場する香川照之の保険会社サラリーマンの姿には、ぐっと感情移入させられる。
 実はそれ以外の登場人物には、演技が一本調子の人が多いが、歯切れがよくてそれを忘れさせてくれる。
 東野圭吾はドラマ脚本向きなのだと思う。
クロサギ
 毎回ゲストの詐欺師役がそれぞれの演技を見せてくれるのが楽しい。
 個人的にはその中でも、意外に堺正章の宝石詐欺役が一番印象的だった。
 山下智久も堀北真希も暗めの役が多い役者だけど、それだけにこの作品でも悪くない。
 山崎努のフィクサー役を充分堪能できる。

歌姫
 長瀬智也の主演はヤクザ風味のものが多いが、ここでは記憶喪失の男を好演。
 相武紗季は演技に無理のある場合があるのだが、当ドラマ中では自然な雰囲気に好感が持てる。
 爽やかで、慎ましい中に思いやりのある登場人物の人間関係に心が洗われる思いがする。
 高田純次のお父さん役が、渋く、かつほっこりしたいい味を出している。
 話の完結のしかたが鮮やかで、納得がいく。
 BGMの一つとしてエリック・クラプトンの"Change the World"が挿入されているが、戦後日本の時代背景とイメージがしっくり重ならない(10話の挿話に関連はあり)。

ハンマーセッション!
 詐欺師が教師になるという展開は、なかなかの見もの。
 速水もこみちの近頃の演技は好感が持てる。
 小日向文世の校長役ははまり過ぎ。
ガリレオ
 個人的に東野圭吾の推理小説作品はどれも軽々しすぎて好きになれないが、このドラマではその軽さがかえってテレビらしく楽に見られた。
 変人天才学者という福山雅治のキャスティングが決め手。
 テーマ曲を含め、挿入曲がすべて冴えまくり。

タイガー&ドラゴン
 有名な落語内容と現代のストーリーが交錯する、かつてない構成の意欲作。
 西田敏行は相変わらずの好演。
 ヤクザものだけに、長瀬智也の調子もよく、岡田准一とのマッチングも快適。

外交官 黒田康作
 めくるめく展開に引き込まれていく。
 ここでも香川照之の存在感が大きい。

あしたの、喜多善男
 単純にミステリーものであるとか、ヒューマン・ドラマであるとかいう肩書きをつけられない多彩な側面を持つドラマ。
 ミステリー的要素だけにしても、同時多発的にさまざまな事件が絡み合い、一筋縄ではいかない。
 小日向文世の初主演作だが、演技に無理がなくて自然に入り込める。
 BGMとして随所にちりばめられたジャズがクールな効果をあげている。

オルトロスの犬
 展開のスピード感が素晴らしい。
 滝沢秀明と錦戸亮は、善人役と悪人役を入れ替えた方がいいのだが、話の展開上それができないのが残念。

東京DOGS
 キャラクターの設定が絡みを面白くしている。

池袋ウエストゲート・パーク
 タイ人と一緒に再び観てみて、笑いを誘う多くのシーンの存在がクローズ・アップされたことで、ドラマの仕掛けのよさを再発見。
 カット割りのテンポがよく、シリアスとギャグの配分がすこぶるいい。
 窪塚洋介のトリッキーという言葉を思い起こさせる、独特の雰囲気を醸し出した演技で印象が深まっている。
 人気の確定していた長瀬智也・加藤あい・小雪・渡辺謙・きたろうに加えて、
  この作品で名声を獲得した窪塚洋介・佐藤隆太・山下智久・坂口憲二・妻夫木聡・阿部サダヲ・酒井若菜といった顔ぶれが揃い、さながらオール・スター・ドラマの色合いである。

Good Luck!!
 木村拓哉演じる主人公は、おちゃらけているようでまっすぐな男という、まさしく王道路線。
 無口で頭の固い冷徹な男に見えて、その実胸に熱いものを持っているという役どころである堤真一の演技が光る。
 近頃のドラマではあまり見られない完全なるハッピーエンドで、気分がすかっとする。

白い春
 
CHANGE
 キムタク首相のノー・カット政見放送は、ドラマ内の効果はさておいて、集中力の高さに舌を巻く。
 汚れ役の寺尾聰が新鮮。
 国会議員を実際に経験した中村敦夫は、やはりそのぶんだけ存在感を出している。
 「キムタクが首相になるという設定に無理がある」との評が多かったが、痛快さがそれを上回った。
 他の俳優が主演だとまずそうだが、木村拓哉の善人首相ぶりは無理がなく、すんなり入り込める。
 深津絵里の向こうっ気の強い女性像も適役。

のだめカンタービレ
 オーケストラの魅力を、その方面に疎い人々に知らしめたのではないだろうか。
 漫画チックなカットがあちこちに飛び出すが、見ていて疲れない。
 上野樹里がのだめ役でなかったら、このドラマはここまでヒットしなかったと思う。
 竹中直人のシュトレーゼマン役ははまりすぎ。

パパとムスメの7日間
 ホームドラマとして、老若男女が安心して楽しめる。
 舘ひろしの娘役が見もの。
 新垣結衣の父親役にはたしかに無理も見えるが、真摯さが伝わってくる。
 父と娘が入れ替わるストーリーだけに、クスッと笑える場面がけっこうたくさんある。

スマイル
 
フィリピンの青年にかけられた嫌疑を晴らすという設定が、東南アジア暮らしの続く僕の個人的なつぼ。
 そのフィリピン青年役が松本順であることにたまげた。

ハケンの品格
 篠原涼子はアイドル時代よりかわいらしくなっていた。
 その篠原涼子の「クールだけど憎めない」キャラクター作りが、かなり成功している。
 大泉洋の主任役が、彼の持っている王道のいい味を醸し出している。

ギラギラ
 ホストの話で、正直なところ友人に勧められても気乗りしていなかったが、1話でノック・ダウンされた。
 佐々木蔵之介の演技は実に懐が深い。

ザ・クイズショウ
 ドロドロの展開を通じて出演者の過去が次々と暴かれて大きな謎に迫る、異色にして意欲作。

プロポーズ大作戦
 「あの頃に戻れたら!」という人間心理を無理なく応用している。
 個人的には、新婦役が長澤まさみでなければ、もっと無理なく感情移入できた。

優しい時間
 北海道でのヒューマン・ドラマという、倉本聰の完全なお家芸ドラマ。
 父子の断絶と和解を描いており、父親役が寺尾聰・息子役が二宮和也という組み合わせで、安定性はばっちり。
 死んだ母親を演じる大竹しのぶも、さすが年季の入った役者ぶり。
 男らしく多くを語らない父と息子に、これまた女性らしい気の回しが絡み、その心のやり取りに唸る。
 エピソードとして扱うテーマが大仰すぎないけれども深く、視聴後に静かな思考が巡る。
 ヒロインは長澤まさみで、演技はうまくないが、そこを役どころが救っている。

SP
 岡田准一の提唱する「からだとからだが近いアクション」は緊迫感を生んでいる。
 ここでも堤真一の上司役の演技が渋い味を醸し出している。
 真木よう子の男っぽい演技は地が出ているようだ。

Mr. Brain
 木村拓哉と綾瀬はるかのコンビとあって、役者が揃った感じ。
 香川照之の刑事役が雰囲気を盛りたてる。

Around 40
 なぜ女性に人気が出たのか、すごくよく分かる作品。
 天海祐希の演技がすごくナチュラル。

Mother
 
オレンジデイズ
 大学生の切なさをうまく活かした作り。
 柴崎コウを美しいと感じたことはないのだが、この作品では声を出せない彼女の姿に思い入れが深まった。
 妻夫木聡はこういうまっすぐな青年役では好演。

東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜
 これまでで最も泣いたドラマ。
 ストーリーうんぬんを超えて、母親役の倍賞千恵子の顔がいつしか自分の母親に代わったまま観てしまう。

ギルティ
 
ルーキーズ
 青春ものの爽やかな運び。
 河東幸一役の佐藤隆太は脇役での引き立てがうまいタイプだと思うが、馬鹿正直な先生役はなかなかはまっている。
 団体競技モノのドラマは、チームの結束が示されるごとに各メンバーの表情やワン・コメントのカットがあるが、さすがに野球では人数が多くて白ける。
 スポーツものにはつきものだが、新庄慶役の城田優は特に、素人目にも野球がうまくないことがわかってしまう。

白い巨塔
 さすが、大作出演者の演技は誰もかれもが唸る素晴らしさ。
 長編だけあって、大学病院の腐敗を描くだけでなく、人としての生き様がありありと捉えられている。
 実は僕の弟がエキストラで出ている。

うぬぼれ刑事
 さすがに斬新な作り。
 始終酒の匂いがたちこめるようなムード。
七瀬ふたたび
 筒井康隆の原作から離れ、まったく新しい展開となっている。
 NHKらしく手触りがへヴィーにならないところは良くも悪くもある。
 原作で圧巻のラストがどう処理されるかが見ものだが、僕としては及第点。

南極大陸
 
秘密
 
ブラッディ・マンディ
 
マイ☆ボス マイ☆ヒーロー
 漫画をベースにしたようなドタバタ・ギャグで良くも悪くも子供向けだが、流れが自然で素直に笑える。
 長瀬智也の配役にはヤクザものが多いが、このドラマでは高校生を兼ねており、そのギャップが面白い。
 新垣結衣の優等生役ははまりすぎ。
 村川絵梨の世話焼きな女子高生役は、本当にこういう子がいるだろうなと思わせる当たり役。

鈴木先生
 
華麗なる一族
 山崎豊子作品らしい、財閥家族の親子断絶をテーマにした社会派ドラマ。
 昭和の風景が、さらに感傷を誘う。
 ナレーションの多様がこれまた、昭和の香りを漂わせる。

プライド
 この頃の竹内結子は本当にきれいだ。
 いわゆる恋愛もの路線がしっかりしているので、タイ人に人気が高い。

花より男子
 少女漫画をドラマ化した作品は、どことなくその臭いが鼻について楽しめなくなってしまうものが多いが、このドラマは楽しめた。
 よりが戻ったりまた破局しかけたりという少女漫画らしい展開が続くが、一つずつのエピソードが丁寧に作り込まれている。

空から降る一億の星
 観ていてこれほど救われない気持ちになったドラマも、最近の中では珍しい。
 珍しいキムタクの汚れ役だが、これまたうまい。
 深津絵里の、もともと陰のある顔立ちがうまく活かされている。

魔王
 サスペンスものだが、歯切れよくストーリーが進行するせいか、重い題材のわりにからっとした気持ちで見続けられる。
 大野智は初主演のわりに安定感がある。

エンジン
 普通の人間を演じるキムタクに好感が持てる。
 子役が多く登場するので、その演技力という点で少し分が悪くなる。

斉藤さん
 観月ありさの「悪いことをしている者を見かけたらちゃんと注意をする女性」がはまり役。
 ミムラの演じる、人目が気になるくせにちょっと抜けている主婦の姿は、男女でかなり好悪が分かれるところ。
 ドラマとは解っていても、男の僕には、主婦どうしの「お付き合い」には絶対に参加できないとしみじみ思う。

ハチミツとクローバー
 ドラマの途中で主人公が学園からいなくなってしまうという、一風変わった構成になっていたのが新鮮。

山田太郎ものがたり
 二宮の好演が目を引く。
 二宮がわざと下手な演技を演じる場面では、思わず吹き出してしまうほどのうまさ。

牛に願いを Love&Farm
 大杉漣は気難しい父親役が一番似合っていると思う。
 こちらも関西テレビ制作で、小日向文世によき相談役というキャスティングで成功している。

ドリーム・アゲイン
 1〜2話あたりまではなかなか入り込めないが、徐々に安心して見られるようになっている作り。
 巨人軍打撃コーチ役の渡辺哲が好演している。
 反町隆史の演技は、このドラマの中では木訥な味を出すことに成功している。

セーラー服と機関銃
 角川のコメディ・タッチはなりを潜め、ひたすら悲しいトーンに包まれている。
 堤真一がキャスティングされていなければ、物語の質が大きく変質してしまうほどに、彼の功績は大きい。

ブラックジャックによろしく
 妻夫木聡が、いっぱいいっぱいになって醜態をさらけ出す男を演じる姿は、必要以上にダメさを醸し出す。
 鈴木京香に貫録を感じ、年月の重みを知った。
 加藤浩次のおとぼけキャラには安定感がある。
 医療の実態を暴く形になっているが、原作漫画の持つ重量感は薄められている。
 妻夫木聡が真っ直ぐすぎるキャラクターを演じている姿は一本調子。

人間の証明
 竹之内豊の主演に、重苦しく暗いストーリー展開がはまっている。
 ストーリー展開が地味。

ブラザー☆ビート
 速水もこみちの軽薄で調子のいい弟役が光る。

ドラゴン桜
 あざとい阿部寛の主役がけっこう当たっている。

Stand Up!!
 斬新さを狙った効果音やストーリー作りだが、かえって凡庸になってしまっている。

若者のすべて (1994年)
 この頃からキムタクって、本当に演技力が高い。
 今の時代の目で見ると、カット割りやテーマの表現の臭さが目につく。
 鈴木杏寿の髪型に80年代の名残りを感じる。
 ユニコーンのEBIが出演していて、日本が再結成に騒いでいるときにタイムリーさを感じた。

かるたクイーン
 バンコクで入院しているときに観ていたドラマ。
 なんということはないが、それがNHKのよさだったりする。

富豪刑事
 筒井康隆の原作だとは信じたくないばかばかしさ。
 そのばかばかしさには深田恭子と山下真司のコンビがぴったりフィットしている。

アテンションプリーズ
 「Good Luck!!!」を下敷きに、低年齢層を狙ったような作り。
 上戸彩の元気少女役はちょっとやりすぎ。

下北Glory Days
 30分番組で、中途半端なお色気路線が観ていてつらくなってくる。



番外編

タイのドラマ


タイでもドラマに人気がある。
そもそも、この国ではドキュメンタリー番組がほとんど存在せず、ニュースとお笑いとドラマがほとんどである。
噂好きのうえ、とにかく「サヌック」であることを何より優先する国民性だから、その番組構成はぴったり当てはまると言っていいだろう。
ここでは、その一角であるドラマについて記してみよう。

まず、タイのドラマの舞台は、古今を問わず金持ち一家での騒動が中心である。
日本でも80年代に世間を風靡した「トレンディー・ドラマ」では、一人暮らしの20代がヒルズ族真っ青の部屋に住んでいたりしていたが、当然のようにそれ以外の種類のドラマも数多く存在した。
しかし、タイでの場合、舞台設定はほぼ確実に大きな一軒家に住んでおり、メー・バーン(お手伝いさん)が住み込んでいて、彼女も巻き込んでドラマが展開する。
また、扱っているテーマは、これまたほぼ例外なく「もつれた愛のドロドロ」である。
そこにはおおむね、見るからに善良な主人公やその仲間と、どう見ても悪玉の登場人物がいて、その中間地点として、悪役に翻弄されながら過ちを犯し続ける重要な脇役が存在する。
そして、ヒーローものよろしく、悪役はとことんまで謀略を巡らせ、その試みは最終回に近くなるまでほぼ狙いどおりに成功を収める。
そのたびに、タイ人は「ニサイ・マイ・ディー(性格悪い)!」と声をあげる。

正直言って、その作りは非常に一面的で、そういう意味では、日本で80年代あたりまでよく昼枠で放映されていた、とことんまで辛苦をなめさせ続けられる不幸な主人公や一家を取り扱った救いのないドラマに類型を見ることができそうだ。
この一面性は、タイの多くの場面で遭遇できる。
現在の日本はコンビニやファミレス、ファースト・フードの躍進で地方色を失っているとしばしば指摘されているが、タイではそもそも地方色がどこに伺えるのだろうというほどに、どこに行っても売り物が画一的であったりする。
それは、タイが先進国ではないからというわけではない。
さまざまな商品構成を展開するだけの経済力を、もうすでにこの国は身につけている。
もっと前の段階で、タイ人の中での多様なニーズがないのだ。
ポップ・ミュージックにしても、一部に反社会を歌った「プレーン・プア・チーウィット」というジャンルがかろうじてあるが、メジャーな販売網で発表される曲の90パーセント以上が「愛」をテーマにしたものなのである。

さて、ドラマに話を戻そう。
タイのドラマで愛のドロドロをテーマにする以上、そこには醜い嫉妬や陰謀が渦巻いている。
こうなった以上、主役はどちらかというと女性である。
そこで展開される事態は、理想世界を夢想しようとする日本のドラマに比べて、どちらかというと本音に溢れているのかもしれない。
化粧までして本当の自分を隠し、美しく見せようとする女性という性を剥ぎ取った先にある、どうしようもない行き場のなさがそこに現れている。
たとえば、ドラマのひとつの回の中で、女が手をあげて相手を殴ったり、激しく罵ったり、殺したりするシーンが登場しない日はない。
多くの場合、最終回ではすべての陰謀が露見し、ハッピー・エンドにせよ悲しい結末にせよ、視聴者はそこでカタルシスを得ることはできる。
しかし、日本人の僕の目から見れば、どこか腑に落ちない。
ストーリーが完結したということでは済まされない、やりきれない感覚が残る。
これは須らく、タイ人との人間関係がある程度以上深くなると胸の内に残るわだかまりと似通っている。

日本の場合だと、悪玉の陰謀に翻弄される善人は脇役に配置される傾向が強い。
そうでないと、主人公としての資質を満たさないと見る人が多いからだ。
だが、タイでは翻弄され続けることに「善」が存在すると捉えられているようだ。
知略を巡らせる者は、その考えを自身の利便のために駆使するものだという声を、僕はそこから聴きとっている。
そう、やはりタイは日本よりはずっと進んだ個人主義社会なのだ。
だからこそ、この国では一人で食事をする日本人の姿を見て驚く人が多い。
基本的に自分の身は自分で守らなければならないことを身に染みて感じているので、一人の時間をできるだけ減らさないことには、孤独がいつもひたひたと身を包もうとしている音を聞いてしまうのだろうと思う。
なぜこの国の人がよく微笑むのか、どうして笑いを求めるのか、家族をことさら大切にする理由は何か、仏教に帰依したり国王を敬うのはどういうわけか、その答えの一つがここにあるような気がしてならない。
そして、ドラマでもポップ・ミュージックでも恋愛をテーマにしようとしたがるのも、きっとそのせいなのだと思っている。

僕はタイという国に惹かれて移り住むまでになった。
そこには、この国の人たちがナショナリズムに固執せず、人間関係に開かれた側面を持っているという理由が大きかった。
長らく、僕はそれが理由のすべてではないかとさえ考えてきた。
だが、その根源にはさらに、タイ人が人前には陳列することのない孤独を内奥に抱え、現代を生きる日本人としての孤独とともに暮らす僕も心の奥底でバイブレーションを感じていたところにあったのではないか。
そして、そのもがき方の違いが、タイのドラマを素直に楽しめなかったり、タイ人とのつきあいに四苦八苦している原因なのではないか。

ブラウン管を眺めながら、そんなことを感じたりしている。









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