始めは冗談かと思った。まだバンコクにタワー・レコードがあった頃、店内の髪をレモン・イエローに染めたアイドルのポスターには"Vitamine C Coming Soon!"と大書されていたのを見つけたことがあった。タイのアイドルなら判るが、アメリカン・アイドルでヴァイタミンCとは…。しかし、冗談で店頭に等身大ポスターまで作って立てかけるわけがない。そうしていると、店員さんがサッと1枚のフライヤーをくれた。僕は立派に、ヴァイタミンCのファンだとみなしてもらったわけである。
 どうせバンコクをうろうろして過ごすだけの暇な旅行者だった。物見遊山で出かけてみることにした。タワーレコードでのサイン会&握手会。ああ、サイン会なんて何年ぶりだろう? 失礼だから特価になっていたCDも買って列に並ぶ。そうして自分の番が近づいてくると…あ、確かにきれいな人だ。それにアジア人特有の白人コンプレックスも出てきた。「これからも頑張ってくださいね!」みたいなことを言おうと思っていたのに、面と向かうと何も言えなかった。
 フライヤーをチェックすると、このあとはすぐ近くのサイアム・スクエアのセンター・ポイントにあるミルク・ガーデンでライヴになっている。さっそく向かう。カメラは?…もう、追っかけである。ヘッドセット・マイクで激しく踊る彼女は、完全な口パクである。でも、そんなことはどうでもいい。それはわかり切っていることだ。
 結局ロイヤル・シティー・アヴェニューの一角にあるバーで開かれる、ヴァイタミンCにとって今回のタイでのプロモーション上もっとも本格的なライヴにまで後日僕は足を運ぶことになる。そして、また間近に彼女の美しさとダンスの激しさを感じて、そのあとの握手会の列にも並んだ。気を落ち着かせよう。"Are you Japanese?" ヴァイタミンCは僕の目を覗き込んだ。
"Yes. Will you visit to Japan?"
"Yes!"
"I will wait for your visiting. Please keep yourself, keep your own beat."
 ヴァイタミンCは、「サンキュー」と投げキスのまねをしておどけてみせた。表で僕が出てくるのを待っていたタイ人の友達が訝るくらい、その日の僕はぼぉっとしていたらしい。


ALBUM
Vitamin C

links of Vitamin C
Electra Record - Vitamin C Page   http://www.elektra.com/elektra/vitaminc/index.jhtml


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